「売上は前年比120%。それなのに、営業利益は横ばい、むしろ少し減っている」——決算書を眺めながら、そんな違和感を抱える経営者の方は少なくありません。

広告は止めていない、値引きも増やしていない。それでも、なぜか手元のキャッシュは細っていく。

この違和感は、年商1〜10億のEC物販事業者の決算書に共通して現れる、ある "構造" の症状です。本記事では、その構造を 3つに分解してお話しします。

売上は伸びるが、利益が横ばいになる構造 前期Q1 Q2 Q3 Q4 今期Q1 売上↑ なのに 利益が横ばい 売上:1.5倍 営業利益:横ばい
▲ 5四半期で売上は1.5倍。だが営業利益はほぼ水平のまま。
CONTENTS / もくじ
  1. 第1の構造:売上拡大に「比例以上」の速度で膨らむ在庫
  2. 第2の構造:見えにくく積み上がる保管コスト(FBA・3PL)
  3. 第3の構造:気づけば1ポイントずつ上がる広告費・モール手数料の比率
  4. なぜ3つの構造は同時に発生するのか("部分最適"の罠)
  5. 明日からできる「決算書3チェック」(しきい値付き)
  6. まとめ:次に読みたい記事

第1の構造:売上拡大に「比例以上」の速度で膨らむ在庫

最も多く、そして最も気づきにくいのが、在庫の膨張です。

年商1.5億円のEC事業者が、2.5億円を目指して攻めにいくとします。SKUは150から250へ、販路も楽天1本から、Amazon・Yahoo・自社EC・Qoo10と多面化していく。

このとき、在庫が「売上比例」で増えるなら問題はありません。しかし実際には、在庫は売上の伸び以上に膨らむことがほとんどです。

年商 1.5億円 → 2.5億円(1.67倍
在庫 3,500万 → 7,000万円超2倍
対売上比 23% → 28%(5ポイント悪化)

理由はシンプルで、SKUごと・モールごとの担当者が、それぞれ「欠品を出さない」というKPIで判断しているからです。各人にとって最適な「念のためバッファ」が、全社で積み重なる。

ECではさらに、サイズ違い・色違い・セット品・モール別在庫が絡むため、経営者の感覚以上に在庫は細かく分散します。誰も間違っていないのに、棚は静かに死蔵在庫で埋まっていきます。

決算書には「棚卸資産」として 資産 計上されるため、PL(損益計算書)では見えません。しかし実態は、キャッシュが寝ているだけの状態。売上の伸びの陰で、フリーキャッシュフローはむしろ細っていく——これが、第1の構造です。


第2の構造:見えにくく積み上がる保管コスト(FBA・3PL)

第2の構造は、第1の構造の 「会計上のしっぽ」 として、遅れて現れます。

在庫が膨らめば、当然ながら保管コストも膨らみます。

保管費 月100万円 → 月220万円(売上1.67倍に対し2.2倍
年間ベース:+1,440万円のコスト増

問題は、この費用が 損益計算書の中で「販管費」の一部として静かに混ざる ことです。「販管費が少し上がった」程度の認識のまま、年間1,000万円以上の利益を削っているケースを、私たちは何度も見てきました。

つまり、第1の構造(在庫の膨張)が、第2の構造(保管コストの膨張)として遅れて顕在化します。決算書を1期分しか見ていないと、両者が同じ問題の表と裏であることに気づきにくいのです。


第3の構造:気づけば1ポイントずつ上がる広告費・モール手数料の比率

第3の構造は、売上の 「上から削られる」 コストです。

具体的には、広告費とモール手数料の対売上比率が、年を追うごとに少しずつ上がっていくという現象です。

新規獲得を進めるほど、限界顧客の獲得コストは上がります。ROAS 500% だったキャンペーンが、規模を拡大した瞬間に300%を切る——これはEC運営者なら誰もが経験することでしょう。同時に、楽天スーパーセール・Amazonセール・LINEギフト施策など、モール内のイベント参加コストも年々重くなっています。

広告費率 15% → 18%(+3ポイント)
モール手数料率 12% → 13%(+1ポイント)
合計 +4ポイント = 年商2.5億の事業者で 年間1,000万円の利益直撃

営業利益率が10%の企業なら、これだけで 利益の約4割 が消えます。

広告判断と在庫判断は、本来セット

ここで重要なのは「広告を止めること」ではありません。

広告で需要を作っても、在庫が足りなければ機会損失 になります。逆に、広告を強める前提で在庫を積みすぎると、売れ残った分がキャッシュを圧迫します。広告判断と在庫判断は、本来セットで考えるべきものです。

そして厄介なのは、これも第1・第2の構造と同じく、「売上拡大」という追い風の中では気づきにくいこと。売上が伸びている安心感の裏で、利益率は静かに削られていきます。


なぜ3つの構造は同時に発生するのか("部分最適"の罠)

ここまで3つの構造を見てきましたが、本質的な原因は 1つ です。

各部門・各担当者が、自分のKPIで 部分最適 を続けている、という点です。

部分最適の積み重ねが、全体の利益を削る
販売担当:欠品を出さない(→ 多めに発注)
購買担当:ロット価格を下げる(→ 大ロット仕入れ)
広告担当:ROASを守る(→ 売れ筋に集中投資)
倉庫担当:出荷遅延を出さない(→ 各拠点に厚めの在庫)

それぞれが正しい判断をしている。にもかかわらず、全社の利益は残らない。
これは、誰かのミスではなく、構造の問題です。

私たち Arke 合同会社が「データとAIで意思決定を自動化する」と申し上げているのは、まさにこの構造を解くためです。

需要予測・発注・保管・広告投下を、各担当者の判断の足し算に頼るのではなく、AIエージェントが工場・倉庫・モールを横断して全体最適を取りにいく。

——こうした 複数シナリオを比較するシミュレーション で、実行する前に未来を先読みする。これが、3つの構造を同時に解く現実的な方法だと私たちは考えています。


明日からできる「決算書3チェック」

ここまでの話を踏まえて、明日、あなたが自社の決算書(または直近の月次試算表)を開いてやるべきことを、3つの数字に絞ってお伝えします。

電卓と決算書、または Excel の月次PLがあれば、10分で全部終わります

CHECK 1在庫対売上比(在庫÷年商)
期末棚卸資産 ÷ 年商 × 100 = ◯◯%
〜20% 健全 20〜25% 要観察 25%超 危険
第1の構造(在庫膨張)の典型症状。25%を超えていたら、SKU別・モール別に在庫日数を出して、90日超を洗い出すのが次の一手です。
CHECK 2保管費の伸び率 vs 売上の伸び率
保管費の前年同期比 − 売上の前年同期比 = ◯ ポイント
−5pt以下 健全 ±5pt 要観察 +5pt超 危険
売上が10%伸びているのに保管費が20%伸びていたら、**+10pt**で危険ゾーン。第2の構造(保管コスト膨張)が始まっています。3PL倉庫なら坪数の見直し、FBAなら長期保管手数料の確認を。
CHECK 3販売変動費比率(広告+モール手数料+決済)÷ 売上
(広告費 + モール手数料 + 決済手数料) ÷ 売上 × 100 = ◯◯%
粗利率の40%以下 粗利率の40〜55% 粗利率の55%超
粗利率35%の事業者なら、この比率は 14%(粗利の40%)以下が目安。**19%(粗利の55%)を超えると営業利益はほぼ残らない**水準です。広告ROASだけでなく、モール手数料・決済手数料も含めた合計で見るのがポイント。
3つのうち、いくつ赤信号でしたか?
0個:健全。今のうちに仕組み化を進めて、成長期に備える段階。
1個:1つの構造が先行して悪化中。早めに手を打てば軽症で済みます。
2個:構造が連鎖し始めています。半年以内にキャッシュ圧迫が表面化する可能性。
3個:すでに「部分最適の罠」に入っています。**全社横断での意思決定の見直し**が必要です。

持ち帰れるテンプレート

これら3つを毎月チェックできる 無料Excelテンプレート と、在庫の現状を1分で診断できる モール在庫シミュレーター を公開しています。決算書を開いた今日、そのまま数字を入れて確認できます。

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無料で在庫最適化する方法|エクセル1枚から始める実践ステップ

発注計算式・回転率の見方・週次レビューのチェックリストまで、コピペで使える形で公開。Excelテンプレも無料配布。

記事を読む(無料テンプレDLあり) →
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モール在庫シミュレーター

SKU数・売上・在庫金額を入力するだけで、3つの構造のうちどれが進行中かを30秒で可視化します。

シミュレーターを開く →

まとめ

売上が伸びても利益が残らないEC事業者の決算書には、

  1. 在庫の膨張(売上比例以上のスピードで増える)
  2. 保管コストの膨張(販管費に紛れて見えにくい)
  3. 広告費・モール手数料比率の上昇(売上の上から削られる)

という3つの構造が共通しています。これらは別々の問題に見えて、実は 「部分最適の積み重ね」 という1つの根に繋がっています。

次回は、この中でも最も影響の大きい「在庫」に焦点を当て、「なぜあなたの在庫はいつも多すぎるのか(構造解明)」 をお届けします。

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