「在庫を減らせ」と耳にタコができるほど聞いてきた。でも、なぜそれが利益に跳ね返るのか、構造で語れますか――。

「在庫はとにかく減らした方がいい」という主張と、「在庫を厚く持った方が機会損失を防げる」という主張は、どちらももっともらしく聞こえます。両方の言い分が分かるからこそ、自社で何をどこまでやるべきかが見えなくなります。

本記事では、「在庫を減らすと利益が増える」を、5つの効果に分解してモデル金額で示します。粒度は"腹落ちする"レベルで、厳密な会計処理には踏み込みません。あわせて、減らしすぎの副作用も両論で扱います。先にお伝えすると、結論は「在庫の最適化とは、減らすことではなく、適正水準に置くこと」です。

目次
  1. 前提モデル:年商3億円・粗利率30%・在庫額6,000万円
  2. 在庫を25%減らした時に起きる5つの効果
  3. 合算した時の年間利益インパクト
  4. ただし、減らしすぎの副作用(両論)
  5. 結局、どうすればいいのか(SKU階層別・業態別)
  6. 図解:在庫減 → 5効果 → 利益インパクトの構造
  7. まとめ

前提モデル:年商3億円・粗利率30%・在庫額6,000万円

本記事の試算に使う前提モデルです。数字はすべてモデル値・代表的傾向で、実在企業ではありません。

モデル会社の前提

ここから、在庫を 6,000万円 → 4,500万円(25%減、−1,500万円) に圧縮した時の、利益面で起きることを順に分解していきます。

在庫を25%減らした時に起きる5つの効果

5つの効果は重複もありますが、内訳として並べた方が腹に落ちます。

EFFECT 01
① 保管料の削減 約 75万円/年
保管料はおおむね在庫量に比例します。FBA保管料、自社倉庫の賃料、棚レンタル代――いずれも、在庫が減れば減らせます。仮に保管料率を在庫評価額の年5%とすれば、6,000万円×5%=300万円→4,500万円×5%=225万円で、年間75万円の削減。さらに、長期保管手数料の対象から外れるSKUが増えれば、効果は重なります。保管料の累積構造はFBA保管料、1日10円が3年で◯百万円になる雪だるま現象で扱っています。
EFFECT 02
② 廃棄損・在庫評価損の縮小 約 45万円/年
過剰在庫は、時間とともに価値が下がり、最終的に廃棄や評価損として損益計算書に乗ります。在庫額の年3%が廃棄・評価損として消えると仮定すれば、6,000万円×3%=180万円→4,500万円×3%=135万円で、年間45万円の縮小。なお、滞留在庫ほど評価損率は高くなる傾向があるため、実際の改善額は2倍程度に膨らむこともあります。
EFFECT 03
③ 値引き販売の発生量減 → 粗利率の維持 約 150万円/年
過剰在庫を捌くための値引きセールが減れば、粗利率は維持されます。仮に粗利率が0.5ポイント改善すれば、売上3億円×0.5%=150万円の粗利増。0.5ポイントは控えめな改善幅ですが、年間で見ると大きな額になります。在庫が多い会社ほどセール・クーポン・在庫処分企画への依存が高くなる構造を断ち切るのがこの効果。利益が残らない構造の全体像は利益が残らない決算書の3つの構造で扱っています。
EFFECT 04
④ キャッシュ拘束の解放 約 50万円/年
1,500万円の現金が在庫から解放されます。借入金で運転資金を回している場合、金利分(仮に2%とすれば年30万円)が直接的に削減。さらに、その現金で売れ筋への追加投資や広告強化に回せば、機会価値として年間50万円相当の効果が見込めます。P/L上は見えにくいですが、経営インパクトとしては最も大きい場合があります。
EFFECT 05
⑤ オペレーションコスト減 約 80万円/年
在庫が減ると、棚卸時間、ピッキング距離、倉庫の床面積、検品工数、すべてが軽くなります。倉庫運営の人件費・賃料の合計が在庫量に応じて約25%圧縮されれば、年間80万円程度の削減が見込めます。SKU数が多い事業者ほど、この効果は大きくなります。

合算した時の年間利益インパクト

5つの効果を合算します。

前提モデルの営業利益は約2,400万円。そこに+400万円が乗れば、営業利益は約2,800万円、率にして約17%の増加です。在庫25%減という、決して非現実的でない圧縮で、営業利益が17%伸びる――これが「在庫を減らすと利益が増える」の数学的な内訳です。

PRINCIPLE
利益は1か所から生まれるわけではない
保管料・値引き・評価損・キャッシュ・オペレーション――どれも単独では「大きな経費」に見えません。だからこそ、どれか1つを見ているだけでは在庫圧縮の効果は腹落ちしません。5つの小さな改善が同時に積み上がった結果として、利益が伸びる。これが在庫圧縮の本当の構造です。

なお、上記5効果は重複部分もあります。①保管料減と⑤オペレーション減は倉庫運営コストとして連動しますし、②廃棄損縮小と③値引きロス減も死に筋整理の結果として同根の効果です。それでも内訳として並べたのは、「どこから効くか」を経営者が把握しやすくするためです。月次P/Lで見るべき指標との関係は月次P/LでEC社長が真っ先に見るべき5つの数字も参考になります。

ただし、減らしすぎの副作用(両論)

「減らせば減らすほど良い」という話ではありません。減らしすぎると、次の副作用が出ます。

⚠ 在庫を減らしすぎた時の副作用
欠品による機会損失:売れ筋を切り詰めて欠品させれば、本来取れたはずの売上を逃す。会計上の「損」として現れないため見落とされがち。
ブランド毀損:「この店は品揃えが薄い」と認識されれば、リピート購入が減る。自社EC中心のブランド型事業者で特に注意。
仕入ロット効率の悪化:発注ロットを小さくすれば仕入単価が上がる。粗利率改善と原価率悪化が相殺し、効果が出ないことも。
PRINCIPLE
在庫最適化 ≠ 在庫削減
「在庫の最適化」は、減らすことそのものではなく、「売れ筋を厚く、死に筋を薄く」という再配分の話です。総量だけを見て一律カットすれば、効果が出るどころか、欠品と高単価仕入の合わせ技で利益が落ちます。本当の最適化は、SKU階層を分けた配分の設計です。

結局、どうすればいいのか

一律で在庫を25%減らす、というアプローチは現実的ではありません。SKU階層別に判断するのが基本です。

SKU階層別の判断軸

売れ筋(上位20%)
減らしてはいけない領域
欠品リスクを最小化するため、むしろ厚めに持つ判断もあり得ます。回転を優先し、安全在庫を確保。ここを切り詰めた瞬間に、利益どころか売上を失います。
中位(中間60%)
適正水準に置く領域
在庫日数を見ながら、発注頻度を最適化。データに基づく再発注で「ちょうど良い」を維持します。中位は監視対象であって、削減ターゲットではありません。
死に筋(下位20%)
最も削るべき領域
在庫減の効果は、ここから大きく出ます。処分・値引き・撤退の判断を進めるのが王道。在庫を半分に減らし、キャッシュを倍にしたEC事業者の事例で示したケースも、ここの再配分が肝でした。

業態別:減らせる雪玉と減らしてはいけない領域

SKUが多い型
死に筋の母集団が大きい → 効果①〜⑤が出やすい
下位SKUの整理から始めるのが王道。上位SKUではなく下位SKUに雪玉が潜んでいることが多くあります。500SKU規模なら、削減余地は最大で在庫額の30〜40%という事例も。
季節品中心の型
シーズン外の滞留が最大の雪玉
シーズン前の発注精度を上げ、シーズン後の出口設計を先に決めるのが順序。減らしすぎると次シーズンの仕入交渉でロットが小さくなり、原価率悪化のリスクがあります。「来年売れるかもしれない在庫」が、最も高いコストになる場合があります。
OEM・PB長納期型
削減より予測精度改善
在庫日数が構造的に長いため、無理に減らすと欠品か高単価仕入のどちらかが起きます。減らせる雪玉は「長納期×低回転」のSKUに絞り、定番品の安全在庫は保つのが現実的。長納期商品の安全在庫を無理に削ると欠品リスクが高まります。

図解:在庫減 → 5効果 → 利益インパクトの構造

5効果の合算構造を、1枚に整理しました。

在庫25%減 → 5つの効果 → 年間 約400万円の利益増 在庫圧縮 6,000万円 → 4,500万円 (−25%) ① 保管料削減 約 75万円 ② 廃棄損・評価損縮小 約 45万円 ③ 値引きロス減(粗利維持) 約 150万円 ④ キャッシュ拘束解放 約 50万円 ⑤ オペレーションコスト減 約 80万円 年間 利益インパクト 約 +400万円 (営業利益 +約17%) ※ 数値はモデルケース。実際の効果は業態と前提条件で変動します。
▲ 在庫の25%圧縮は、5つの経路で利益に効く。合算で年商の1%超のインパクト。

まとめ

「在庫を減らすと利益が増える」は、5つの効果——保管料削減・廃棄損縮小・値引きロス減・キャッシュ拘束解放・オペレーションコスト減——に分解できます。前提モデル(年商3億円・在庫6,000万円・25%圧縮)で合算すると、年間約400万円、営業利益で約17%の増加が見込めます。利益は1か所から生まれるわけではなく、複数の小さな改善が積み上がった結果として生まれる――これが構造の本質です。

ただし、減らせば減らすほど良いわけではありません。欠品・ブランド毀損・仕入ロット効率悪化という副作用があります。本当の最適化は、「在庫最適化 ≠ 在庫削減」――売れ筋を厚く、死に筋を薄くの再配分です。一律カットではなく、SKU階層別・業態別の判断が要ります。

私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「減らすべき雪玉と、減らしてはいけない領域」の見極め設計の支援です。在庫は経営の重要なバランスシート項目であり、減らす対象ではなく、設計する対象として向き合うものです。数字で内訳を見れば、何を減らし、何を厚く保つかは自ずと見えてきます。

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