この記事は、在庫コスト削減の完全ガイドの一部です。
「在庫が多いとなぜ悪いのか」への答えも同じ構造です。 在庫そのものは資産として計上されるので、貸借対照表上は「悪いもの」に見えません。悪いのは、その資産が上の5費目を毎月静かに発生させ続け、かつ現金を動けなくしている点です。だから在庫の多さは損益計算書ではなくキャッシュフローに先に出ます。
一方で「決算で在庫を増やすと利益が増える」「在庫を減らすと利益が減る」という逆説も実在します。これは会計上、在庫として計上した分だけ当期の売上原価が小さくなるために起きる現象で、キャッシュが増えたわけではありません。この会計とキャッシュのズレは後半の「その前に」の章で整理します。
本記事では、「在庫を減らすと利益が増える」を、5つの効果に分解してモデル金額で示します。粒度は"腹落ちする"レベルで、厳密な会計処理には踏み込みません。あわせて、減らしすぎの副作用も両論で扱います。先にお伝えすると、結論は「在庫の最適化とは、減らすことではなく、適正水準に置くこと」です。
- 前提モデル:年商3億円・粗利率30%・在庫額6,000万円
- 在庫を25%減らした時に起きる5つの効果
- 合算した時の年間利益インパクト
- ただし、減らしすぎの副作用(両論)
- 結局、どうすればいいのか(SKU階層別・業態別)
- 図解:在庫減 → 5効果 → 利益インパクトの構造
- まとめ
その前に:「在庫を減らすと利益が減る」と言われるのはなぜか
この記事を読む前に、必ず整理しておきたい話があります。「在庫を減らすと利益が増える」と言われる一方で、経理からは「在庫を減らすと今期の利益が減る」と言われる。この2つは、どちらも正しいのです。
この式のとおり、期末在庫を減らすと売上原価が増え、その分だけ当期の利益は減ります。逆に期末在庫を増やせば売上原価が減り、帳簿上の利益は増えます。「決算前に在庫を増やす」という話が出てくるのは、この構造があるためです。
なぜ矛盾するように見えるのか
答えは「見ている時間軸が違う」からです。
| 会計(当期のP/L) | 経営(キャッシュと継続コスト) | |
|---|---|---|
| 在庫を減らすと | 当期利益は減る | 現金が増え、保管費・廃棄損・金利が減る |
| 在庫を増やすと | 当期利益は増える | 現金が減り、陳腐化・値下げリスクが増える |
| 効果の性質 | その期だけの一時的な振れ | 翌期以降も続く構造的な改善 |
在庫を積んで作った利益は、翌期に必ず売上原価として戻ってきます。前倒しで計上しただけで、増えたわけではありません。一方、保管費や廃棄損の削減は毎期続きます。
前提モデル:年商3億円・粗利率30%・在庫額6,000万円
本記事の試算に使う前提モデルです。数字はすべてモデル値・代表的傾向で、実在企業ではありません。
モデル会社の前提
- 年商:3.0億円
- 粗利率:30%(粗利 0.9億円)
- 期末在庫評価額:6,000万円
- SKU数:約500
- 営業利益率:8%程度(営業利益 約2,400万円)
- FBA+自社倉庫の併用
ここから、在庫を 6,000万円 → 4,500万円(25%減、−1,500万円) に圧縮した時の、利益面で起きることを順に分解していきます。
在庫を25%減らした時に起きる5つの効果
5つの効果は重複もありますが、内訳として並べた方が腹に落ちます。
合算した時の年間利益インパクト
5つの効果を合算します。
- ① 保管料削減:約75万円
- ② 廃棄・評価損縮小:約45万円
- ③ 値引きロス減(粗利率維持):約150万円
- ④ キャッシュ拘束解放:約50万円
- ⑤ オペレーションコスト減:約80万円
- 合計:年間 約400万円
前提モデルの営業利益は約2,400万円。そこに+400万円が乗れば、営業利益は約2,800万円、率にして約17%の増加です。在庫25%減という、決して非現実的でない圧縮で、営業利益が17%伸びる――これが「在庫を減らすと利益が増える」の数学的な内訳です。
なお、上記5効果は重複部分もあります。①保管料減と⑤オペレーション減は倉庫運営コストとして連動しますし、②廃棄損縮小と③値引きロス減も死に筋整理の結果として同根の効果です。それでも内訳として並べたのは、「どこから効くか」を経営者が把握しやすくするためです。月次P/Lで見るべき指標との関係は月次P/LでEC社長が真っ先に見るべき5つの数字も参考になります。
ただし、減らしすぎの副作用(両論)
「減らせば減らすほど良い」という話ではありません。減らしすぎると、次の副作用が出ます。
・欠品による機会損失:売れ筋を切り詰めて欠品させれば、本来取れたはずの売上を逃す。会計上の「損」として現れないため見落とされがち。
・ブランド毀損:「この店は品揃えが薄い」と認識されれば、リピート購入が減る。自社EC中心のブランド型事業者で特に注意。
・仕入ロット効率の悪化:発注ロットを小さくすれば仕入単価が上がる。粗利率改善と原価率悪化が相殺し、効果が出ないことも。
結局、どうすればいいのか
一律で在庫を25%減らす、というアプローチは現実的ではありません。SKU階層別に判断するのが基本です。
SKU階層別の判断軸
業態別:減らせる雪玉と減らしてはいけない領域
図解:在庫減 → 5効果 → 利益インパクトの構造
5効果の合算構造を、1枚に整理しました。
よくある質問
A. 理由は4つあります。①現金が在庫に固定され資金繰りが苦しくなる ②保管費・管理工数が毎月かかり続ける ③時間の経過で商品が陳腐化し、値下げや廃棄が発生する ④在庫があることで需要のズレに気づけず、売れない商品を作り続けてしまう。①〜③は金額で計算でき、本記事の試算で扱っています。
A. 「同じ売上を、より少ない資金で回せるようになる」ことです。在庫25%減のモデルでは、現金が1,500万円手元に戻り、加えて保管費・廃棄損・金利の削減で営業利益が年間で押し上がります。現金と利益の両方に効くのが在庫削減です。
A. 「売上原価 = 期首在庫 + 当期仕入 − 期末在庫」という式のため、期末在庫を増やすと売上原価が減り、当期の帳簿上の利益が増えるからです。ただしこれは翌期に売上原価として戻ってくるだけで、実質的に利益が増えたわけではありません。現金はむしろ減ります。
A. 棚卸そのものは在庫を減らす行為ではなく、実際の在庫数を確定させる作業です。棚卸を機に「帳簿にはあるが実際は売れない在庫」が可視化されるため、そのタイミングで処分や評価損の計上を判断する会社が多い、というのが実態です。
A. 完成品在庫と同じく、現金の固定と保管コストが減ります。加えて仕掛在庫特有の効果として、工程間の滞留が減ることでリードタイムが短縮され、不良の早期発見にもつながります。製造業では、仕掛在庫の削減が品質改善と同時に起きることが多いのはこのためです。
まとめ
「在庫を減らすと利益が増える」は、5つの効果——保管料削減・廃棄損縮小・値引きロス減・キャッシュ拘束解放・オペレーションコスト減——に分解できます。前提モデル(年商3億円・在庫6,000万円・25%圧縮)で合算すると、年間約400万円、営業利益で約17%の増加が見込めます。利益は1か所から生まれるわけではなく、複数の小さな改善が積み上がった結果として生まれる――これが構造の本質です。
ただし、減らせば減らすほど良いわけではありません。欠品・ブランド毀損・仕入ロット効率悪化という副作用があります。本当の最適化は、「在庫最適化 ≠ 在庫削減」――売れ筋を厚く、死に筋を薄くの再配分です。一律カットではなく、SKU階層別・業態別の判断が要ります。
私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「減らすべき雪玉と、減らしてはいけない領域」の見極め設計の支援です。在庫は経営の重要なバランスシート項目であり、減らす対象ではなく、設計する対象として向き合うものです。数字で内訳を見れば、何を減らし、何を厚く保つかは自ずと見えてきます。
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note.comでも要約版を公開しています: 在庫を25%減らすと利益は本当に17%増えるのか|5つの効果を数字で分解する