「最近、倉庫が重い気がする」 「売上はあるのに、口座残高が増えない」 「欠品も怖いが、在庫を増やすのも怖い」

年商1〜2億円規模のEC事業者では、こうした"ぼんやりした不安"を抱えたまま、受注・出荷・広告・仕入に追われがちです。在庫は健康診断と同じで、体調が悪くなってから動くのではなく、定期的に数字を見て異常の兆候を早めに捉えることが重要です。

本記事は、楽天・Amazon・自社ECを運営するEC事業者向けに、自社の在庫状態を1時間で客観視できる「在庫健康診断 5項目」を解説します。在庫日数・滞留SKU比率・在庫評価額の対月商比・チャネル間の偏り・CCCの5つを、健全/要注意/危険の3段階で診断します。

私は東証一部企業でデータ分析・需要予測・業務改善に10年携わり、その後、EC事業者の在庫・需要判断の支援を行ってきました。高度な分析をする前に、まずこの5項目を見るだけでも、自社の在庫状態はかなり客観視できます。Excelで在庫を管理しているが判断軸が曖昧、という方は、手元にチェックリストを置きながらお読みください。

診断項目1:在庫日数

在庫健康診断で最初に見るべき数字は、在庫日数です。今ある在庫が現在の販売ペースで何日分あるかを示す、基本指標です。

算出方法: 在庫数 ÷ 直近30日の平均日販

たとえばSKU-Aの在庫が150個、直近30日の販売数が90個なら平均日販3個、在庫日数は 150 ÷ 3 = 50日です。

診断ライン:

ただし業態によって補正が要ります。日用品など回転の速い物販では15〜30日が標準、季節商品はシーズン中30日/シーズン外は別管理、耐久財・OEM長納期型では60〜120日が構造的に自然です。自社の業態に合った目安レンジは、在庫日数、業態別の目安は何日か(ベンチマーク7パターン)を参考にしてください。

季節商品も注意が必要です。母の日、クリスマス、防寒用品、夏物商材などは、シーズン前に在庫が膨らむのが自然です。逆にシーズン後に90日以上残っている場合は、翌年まで持ち越すのか、早めに現金化するのかを判断する必要があります。

在庫健康診断の起点になるのが、この指標です。SKU 200〜1,500品なら、まず全SKUの平均在庫日数を出し、続いてSKU別の分布(最長/中央値/最短)と90日超のSKU一覧を出します。会社全体の平均だけでは、滞留の偏りが見えません。

診断項目2:滞留SKU比率

2つ目は、滞留SKU比率です。在庫日数が「量」を見る指標なら、滞留SKU比率は「動いていない商品がどれくらいあるか」を見る指標です。

算出方法: 直近90日に1回も売れなかったSKU数 ÷ 全SKU数

SKU 500品のうち、直近90日無動が30品なら、滞留比率6%。

診断ライン:

年商1.4億円規模でSKUが500ある場合、危険ラインの15%は75SKUです。75SKUが90日間まったく動いていないということは、倉庫スペース・在庫評価額・棚卸工数・管理工数を静かに圧迫している可能性があります。

もちろん、すべての無動SKUが悪いわけではありません。季節前の商品、セット販売用の商品、見せ筋として必要な商品もあります。ただし、理由を説明できない無動SKUが増えている場合は、在庫健康診断上は明確な注意サインです。

特にEC事業者では、SKU数が増えるほど判断が属人化します。「これはいつか売れるかもしれない」「前に売れたことがある」「ページを直せば動くはず」――こうした判断は必要ですが、まずは90日無動SKUを数字で見える化することが先です。販売管理データで「直近90日販売数 = 0」のSKUをフィルタするだけでも十分なスタートです。

診断項目3:在庫評価額の対月商比

3つ目は、在庫評価額の対月商比です。今持っている在庫が、月商の何ヶ月分に相当するかを見る指標です。

算出方法: 期末在庫評価額 ÷ 月商

年商1.4億円なら月商約1,167万円。在庫評価額が2,500万円なら、対月商比 約2.1ヶ月。

診断ライン:

3ヶ月分を超えると、運転資金が在庫に過剰に縛られている状態です。年商1.4億円規模なら、在庫が3,500万円以上ある状態が「危険」ライン。売上が立っていても現金が在庫に変わっているため、口座残高が増えにくくなります。

重要なのは、月次で推移を見ることです。1か月だけ3か月分を超えたのか、半年続けて3か月分を超えているのか。売上が伸びた結果なのか、売れ残りが積み上がった結果なのか。在庫健康診断では、単月の数字ではなく、最低でも直近3か月の推移を確認します。

この指標は、銀行融資の判断にも参照されるため、決算書ベースで月次推移を追うのが基本です。在庫減と利益の関係は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたで詳しく扱っています。

診断項目4:チャネル間在庫の偏り

4つ目は、楽天・Amazon・自社ECなど、チャネル間の在庫偏りです。

複数チャネルを運営していると、よく起きる問題があります。楽天では欠品している、Amazonには余っている、自社ECでは在庫切れ表示になっている――同じ会社の在庫なのに、置き場所によって売れ方が変わり、片方で欠品、片方で過剰が起きます。

算出方法: 各チャネルの販売比率 − 在庫比率

たとえば楽天の販売比率が50%、在庫比率(FBA/RSL/自社倉庫の振り分けの合計)が70%なら、差は +20%(楽天に在庫過多)。

診断ライン:

特にFBA、RSL、自社倉庫を使い分けている場合、この偏りは見落とされやすいです。FBAはAmazon販売と相性が良い一方、長期保管にはコストがかかります。RSLは楽天向け出荷に強みがあります。自社倉庫は販路横断の在庫プールとして使いやすい一方、出荷スピードや運用工数の設計が必要です。

販路ごとの需要構造・移動コスト・ROASが異なるため、画一的な配分は機能しません。SKU階層別に「売れ筋は需要比例配分」「中位は均等配分」「死に筋は1チャネル集約」と分けるのが基本です。チャネル別の使い分け判断はFBA・RSL・自社倉庫の4判断軸を参考にしてください。

診断項目5:CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)

5つ目は、CCCです。商品を仕入れてから現金として回収するまでにかかる日数を示します。

算出方法: 在庫日数 + 売掛日数 − 買掛日数

在庫日数45日、売掛日数25日(クレジットカード入金中心)、買掛日数20日なら、CCC = 45 + 25 − 20 = 50日。

診断ライン:

CCCが伸びるほど、運転資金が長く拘束されます。「黒字なのに口座残高が減っていく」現象の正体の多くは、CCCにあります。利益が出ていても、商品が現金になるまでの時間が長ければ、現金は手元に残りません。

年商1.4億円規模で、CCCが60日を超えていれば、運転資金は約2,300万円(日商約38万円 × 60日)が在庫・売掛で拘束されている計算になります。

楽天・Amazon・自社ECでは入金サイクルがチャネルごとに異なります。仕入先への支払いサイトも、前払い・即時払い・月末締め翌月払いなどで変わります。CCCは厳密に出そうとすると少し手間がかかりますが、最初は概算で構いません。在庫日数、入金までの日数、支払いまでの日数をざっくり置いて、自社の資金回収スピードを把握するだけでも十分です。在庫健康診断の総まとめ的な指標として、月次で追う習慣を持つことをお勧めします。

5項目を1枚にまとめる「自己診断表」テンプレート

5項目をひとつのExcelシートにまとめると、診断が10分で終わります。

項目 算出方法 自社の値(例) 健全 要注意 危険 判定
① 在庫日数 在庫数 ÷ 日販 55日 30〜60 60〜90 90+ 健全
② 滞留SKU比率 90日無動 ÷ 全SKU 8% 5以下 5〜15 15+ 要注意
③ 在庫評価額/月商 在庫額 ÷ 月商 1.8ヶ月 1〜2 2〜3 3+ 健全
④ チャネル偏り 販売比 − 在庫比 ±12% ±10以内 ±10〜25 ±25+ 要注意
⑤ CCC 在庫日+売掛日−買掛日 52日 30以下 30〜60 60+ 要注意

5項目のうち「要注意」「危険」が3つ以上ある場合は、構造的な見直しが必要なサインです。1項目だけで判断しないことが重要です。在庫日数が長くても季節前なら問題ない場合があり、滞留SKU比率が低くても在庫評価額が月商3か月分なら資金繰りは重い、ということもあります。在庫健康診断は、5項目を同時に見ることで意味が出ます。

1時間で進める手順

実際に1時間で行うなら、次の順番がおすすめです。

  1. 準備(5分):在庫一覧と直近30日販売実績のCSVを用意
  2. 在庫日数の計算(15分):SKU別に在庫日数を出し、90日超を一覧化
  3. 滞留SKU比率の抽出(10分):直近90日販売数 = 0 のSKUをフィルタ
  4. 在庫評価額の対月商比(10分):在庫評価額 ÷ 月商を直近3か月分
  5. チャネル偏りの確認(10分):チャネル別の販売比率と在庫比率を計算
  6. 概算CCCの算出(10分):在庫日数 + 売掛日数 − 買掛日数

Excelで十分です。最初から完璧な分析を目指す必要はありません。目的は、正確なレポートを作ることではなく、自社のどこに歪みがあるかを見つけることです。

まとめ:1時間で自社の状態を客観視する

在庫健康診断の5項目――在庫日数・滞留SKU比率・在庫評価額の対月商比・チャネル間の偏り・CCC。この5つを健全/要注意/危険の3段階で診断すれば、年商1〜2億円規模のEC事業者でも、自社の在庫状態を1時間で客観視できます。

在庫健康診断は、年に1回ではなく、できれば月1回見るのが理想です。特に年商1〜2億円規模のEC事業者では、在庫判断が資金繰りに直結します。「なんとなく重い」ではなく、「どの指標が悪いのか」を見える化することが、次の一手につながります。

明日からの月次ルーティンに、本記事のチェックリストを組み込んでみてください。「ぼんやりした不安」が、具体的な改善優先順位に変わるはずです。

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