月末の夜。A社の社長は、静かな事務所で決算資料を見返していました。

売上は伸びています。前年より約20%増。広告も好調で、レビュー数も増えている。

それなのに、通帳残高には余裕がない。倉庫費は毎月増え、追加発注のたびに資金繰りが苦しくなる。

売れているはずなのに、なぜかお金が残らない」——食品・サプリ系ECを運営するA社(年商3億円・SKU150)が、この違和感の正体に向き合い、6ヶ月で在庫評価額を4,500万円→2,250万円に半減 させたプロセスをご紹介します。

数字はすべて、実在のEC事業者の改善事例から、業種・規模を再構成した現実的な水準です。

CONTENTS / もくじ
  1. A社のプロフィールと、6ヶ月前の悩み
  2. 問題の正体:なぜ在庫が4,500万も積み上がったのか
  3. A社が実施した4ステップ
  4. 6ヶ月後:実際に動いた数字
  5. このケースから学べる3つのポイント
  6. あなたの会社でも始める3ステップ

A社のプロフィールと、6ヶ月前の悩み

A社は、創業7年・社員15名の食品・サプリ系EC事業者です。主力は健康食品とプロテイン系。販路は楽天・Amazon・Yahoo・自社EC・LINE公式の5チャネル、SKU数は150。年商は3億円に達し、事業としては順調に見えていました。

ところが、決算書をめくると景色が変わります。

在庫評価額 4,500万円(月商の約1.8ヶ月分が滞留)
月次の倉庫保管費 45万円(年540万円、営業利益の約3割相当
手元キャッシュ 月商1ヶ月分(追加発注のたびに資金繰りが苦しい)

社長の悩みはシンプルでした。「在庫を減らせとは言われる。でも欠品が怖い。どこから手をつければいいか分からない」。在庫を絞れば欠品が増え、機会損失が出る——この恐怖が、長らく在庫を見直すブレーキになっていました。

ご相談を受けたとき、私たちが最初にお願いしたのは、「在庫を減らしましょう」ではなく、「まず、SKU別の在庫日数を1枚のシートに並べてみませんか」 ということでした。


問題の正体:なぜ在庫が4,500万も積み上がったのか

A社の業務システムから、SKUごとに「現在の在庫数 ÷ 直近30日の平均日販数」を計算し、在庫日数として可視化しました。作業時間はExcelで約2時間です。

すると、見えてきた現実は厳しいものでした。

在庫日数 30日以内:全体の3割
在庫日数 31〜90日:全体の3割
在庫日数 91日以上:全体の4割(金額ベースで約1,800万円

在庫評価額4,500万円のうち、4割が「3ヶ月以上売れていない商品」 だったのです。社長の第一声は「想像はしていたけど、ここまでとは」でした。決算書の「棚卸資産」という1行の裏側には、この死蔵在庫1,800万円分のキャッシュが、文字通り倉庫で眠っていたのです。

原因は単純な失敗ではありません。次の4つが、少しずつ積み重なっていました。

少しずつ積み上がった、4つの判断
1. 安全在庫を厚く持ちすぎた:欠品を恐れ、念のためバッファが常に上振れ
2. SKU追加時の撤退基準が曖昧:新商品は増えるが、売れない商品は残る
3. モールごとに在庫を分散しすぎた:Amazon側は余り、楽天側は欠品
4. 発注ロットが昔の売上基準のまま:販売速度は変わったのにロットだけ据え置き

「全在庫を減らす」のではなく、「90日超の死蔵在庫1,800万円をどうするか」——議論の起点が、ようやく具体的な問いに置き換わったわけです。


A社が実施した4ステップ

Step 1:SKU別在庫日数の可視化(Excelで30分)

最初にやったのは、前述のとおりSKU別在庫日数の見える化です。難しいツールは要りません。SKUコード/在庫数/直近30日販売数/在庫日数/在庫評価額——この5列を1枚のシートに並べるだけです。

ポイントは、在庫日数で降順ソートし、上から「危険なSKU」が順に並ぶ状態を作ること。これで、議論のテーブルに乗せるべきSKUが一目で見えます。

Step 2:90日超SKUの「撤退/値引き/セット販売」3択判断

次に、90日超のSKU(A社では58SKU)を1つずつレビューし、3択で振り分けました。

撤退(仕入停止+在庫処分):22 SKU(在庫約400万円分を3ヶ月で処分)
期間限定の値引き販売:20 SKU
売れ筋とのセット販売・バンドル化:16 SKU

「撤退」は心理的に最も難しい判断ですが、A社の社長は 「決めないこと自体がコストだった」 と振り返っています。

Step 3:発注ロットを需要予測ベースで再設定

死蔵在庫を減らすのと並行して、新しい死蔵在庫を生まない仕組みを作りました。

それまでA社は「仕入価格を下げるための大ロット発注」が中心でした。しかし、ロット単価2%の値引きと引き換えに、在庫日数が3倍になっているSKUも複数存在していたのです。

過去12ヶ月の販売実績+季節性+プロモーション計画から、SKU別の適正発注ロットを再設定。結果、平均発注ロットは約4割減少。代わりに発注頻度を上げる運用に変えました。

Step 4:FBA・3PLの在庫配置を見直す(モール別バランス)

最後に、モール別の在庫配置を見直しました。FBAと3PLの両方を併用している状態で、同じSKUが両方に積まれ、片方では余り、片方では欠品、というアンバランスが発生していました。

需要予測と各モールの販売速度・送料・手数料を組み合わせ、SKUごとの最適配置をシミュレーションで出しました。この工程は、人手では実質的に難しい部分で、私たち Arke が AIエージェントによる全体最適の出番として支援した領域です。

結果、保管費は月45万→月22万へ、約半減しました。


6ヶ月後:実際に動いた数字

6ヶ月後、A社の決算書は次のように変わりました。

▲50%
在庫評価額
4,500万2,250万円
×2.0
手元キャッシュ
月商1ヶ月分月商2ヶ月分
▲51%
月次倉庫保管費
月45万月22万円
改善
欠品率
3.2%2.1%
A社:6ヶ月間の在庫評価額と手元キャッシュの推移(万円) 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 開始 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 4,500 2,250 2,500 5,000 クロスポイント(3ヶ月目) 在庫評価額 手元キャッシュ
▲ 3ヶ月目に在庫評価額とキャッシュの大小が逆転。半年で完全に関係が反転した。

最も社長が驚いたのは、欠品率がむしろ改善した(3.2% → 2.1%) ことです。

「在庫を減らせば欠品が増える」という直感は、実は正しくありません。減らすべきは「売れていない在庫」であって、「売れている在庫」ではない。

死蔵在庫を整理してキャッシュが浮いた分を、売れ筋SKUの適正在庫に振り向ける——つまり A社がやったのは「在庫総量を減らした」のではなく、「必要な場所に、必要な在庫を置く状態に近づけた」のです。


このケースから学べる3つのポイント

POINT 1 — 在庫は「総量」より「偏り」が危険
4,500万円という総額を眺めても、何をどうすればいいかは見えません。SKU単位の在庫日数まで分解して初めて、議論できるテーブルに乗ります。売れ筋不足と死蔵在庫過多が同時に起きている——これがEC在庫の典型パターンです。
POINT 2 — 欠品を恐れて積んだ在庫が、逆に経営を苦しくする
多くのEC事業者は、欠品を避けようとして在庫を増やします。しかし、在庫が増えすぎるとキャッシュが固定化され、広告投資や新商品投資の余力を失います。結果として、成長速度そのものが鈍くなる。これが、A社が6ヶ月前にハマっていた構造です。
POINT 3 — 発注・倉庫・モールを別々に見ない
発注だけ改善しても、モール配置や倉庫コストが崩れると意味がありません。「工場」「倉庫」「モール」「需要予測」をつなげて見ることが、これからのEC運営では必要になります。Arke がAIエージェントによる全体最適を重視しているのも、このためです。

あなたの会社でも始める3ステップ

A社のケースから抽出した、明日からでも始められる3つのステップをご紹介します。特別なツールは要りません。

今週やるSKU別在庫日数を出す(Excelで30分)
SKUコード、在庫数、直近30日の販売数、在庫日数、在庫評価額の5列を1枚のシートに並べ、在庫日数で降順ソート。完璧を目指さなくて大丈夫です。これだけで、自社の死蔵在庫の正体が見えます。
来週やる90日超SKUを「撤退/値引き/セット販売」の3択で振り分け
全SKUを完璧に判断する必要はありません。まずは 上位10SKUから。1SKUあたり10分の議論で十分です。「継続」「セット化」「撤退」のいずれかに必ず分類し、放置しないルールを作ります。
来月やる発注ロットを需要予測ベースで見直す
過去12ヶ月の販売実績と季節性から、SKU別の適正発注ロットを再設定。「ロット単価の値引き」と「在庫日数の増加」のトレードオフを、改めて天秤にかけてみてください。SKU数が100を超えると、人の感覚だけで最適化するのは難しくなります。

この3ステップだけでも、多くのEC事業者で 在庫の2〜3割削減は十分に射程に入ります

持ち帰れるテンプレート

A社が Step 1 で使ったのと同じ「SKU別在庫日数」テンプレートと、自社の現状を1分で診断できるシミュレーターを無料公開しています。

📊

無料で在庫最適化する方法|エクセル1枚から始める実践ステップ

SKU別在庫日数の出し方、発注計算式、回転率の見方、週次レビューのチェックリストまで、コピペで使える形で公開。Excelテンプレも無料配布。

記事を読む(無料テンプレDLあり) →
🧮

モール在庫シミュレーター

SKU数・売上・在庫金額を入力するだけで、自社で死蔵在庫がどれくらい眠っているかを30秒で可視化します。

シミュレーターを開く →
📈

売上が伸びても利益が残らないEC事業者の決算書に、共通する3つの構造

A社がハマっていた構造を、決算書レベルで3つに分解した記事。「在庫」「保管費」「広告・手数料」のしきい値もチェックできます。

記事を読む →

まとめ

A社のケースから見えてくるのは、シンプルな事実です。

次回は、この中でも最も影響の大きい「在庫の偏り」に焦点を当て、「なぜあなたの在庫はいつも多すぎるのか(構造解明)」 をお届けします。

📊 在庫健康診断(60分・無料)

「うちでもA社と同じことが起きていそうだ」と感じられた方へ。Arke では、貴社の在庫データ・販売データを基に、SKU別在庫日数・死蔵在庫比率・モール別バランス・適正発注ロットを60分で診断する無料サービスをご提供しています。診断結果は、その場でレポート形式でお持ち帰りいただけます。

お問い合わせフォームへ →