在庫管理表は、ほとんどのEC事業者が持っています。問題は、それが「発注の判断に使えていない」ことです。

Excelやスプレッドシートを開けば、SKUと数字がずらりと並んでいる。在庫の数は分かる。けれど、その表を見て 「このSKUは今すぐ発注すべきか、まだ待っていいか」が即答できるか というと、多くの場合できません。表は「ある」のに、判断には「使えない」のです。

本記事は、その在庫管理表をClaudeで「発注判断できる形」に整理してみた実録です。EC運営でClaudeにできること20選の項目05「在庫データの整理」を、実際に手を動かして詳しく見ていく回にあたります。先に結論を言えば、整理はAIが速い。ただし、判断は人がする。 その分担さえ守れば、手元の表は見違えます。

CONTENTS / もくじ
  1. ビフォー:よくある在庫管理表の「使えなさ」
  2. やってみた:Claudeに何を渡し、どう指示したか
  3. 検証:出力を、そのまま使わない
  4. アフター:発注判断に効くようになった表
  5. 結局、自分でやるには
  6. まとめ

ビフォー:よくある在庫管理表の「使えなさ」

整理の前に、「使えない在庫管理表」が具体的にどういう状態かを挙げます。心当たりがあるはずです。

問題 1列がバラバラで、横断して見られない
自社EC・楽天・Amazonとモールごとにエクスポートした表を別シートで持ち、列名も並び順も違う。「在庫数」が、あるシートでは「在庫」、別では「数量」。横断して見ようとした瞬間に、手が止まります。
問題 2「在庫数」はあっても「在庫日数」がない
在庫が120個あると分かっても、それが「あと何日分か」は書かれていない。日に10個売れる商品の120個と、月に1個の商品の120個は、意味がまったく違います。在庫日数がなければ、発注の緊急度は判断できません。
問題 3「最終販売日」が分からない
そのSKUが最後に売れたのが3日前なのか半年前なのか。これが見えないと、動いている在庫と止まっている在庫の区別がつきません。結果として滞留が見えず、気づけば倉庫の奥で半年動いていない在庫が積み上がっている——表は毎日見ているのに、です。

数字は並んでいる。でも、判断に必要な数字が並んでいない——これがビフォーの状態です。

やってみた:Claudeに何を渡し、どう指示したか

ここからが本記事の核心です。実際にClaudeへ渡したもの、出した指示、返ってきたものを順に見ます。なお、以下のデータ内容はすべて、説明のためのデモ用の代表例です。

渡したデータ

用意したのは、2つのシンプルなデータです。1つは 在庫データ——「SKU・商品名・現在の在庫数」の列を持つCSV。もう1つは 販売実績データ——「SKU・販売日・販売数」の列を持つCSV。どちらも各モールの管理画面から正規の方法でエクスポートできる、ごく標準的なものです。特別なデータは要りません。 完璧に整える前に、まず手元にあるもので始めて構いません。

出した指示(プロンプト例)

最初に渡した指示は、次のようなものです。

PROMPT 1 ── 在庫日数を整理する
添付の2つのCSV(在庫データ・販売実績データ)をSKUで突き合わせ、
SKUごとに次の列を持つ1つの表にまとめてください。
・SKU / 商品名 / 現在の在庫数
・直近30日の平均日販(販売実績から計算)
・在庫日数(在庫数 ÷ 平均日販)
・最終販売日からの経過日数
計算の前提(使った期間など)も表の下に併記してください。

ポイントは、「在庫日数をどう計算してほしいか」を曖昧にしないことです。平均日販を直近30日で取るか90日で取るかで、在庫日数は変わります。期間を指示に明記し、「前提も併記して」と頼んでおく。これで、後の検証がしやすくなります。

続けて、判定列を足す2つ目の指示を出しました。

PROMPT 2 ── 判定列を足す
上の表に「判定」列を追加してください。
・在庫日数が短く、欠品の懸念があるもの → 「要発注」
・在庫日数が長く、最終販売も止まっているもの → 「滞留」
・それ以外 → 「適正」
判定に使った境界値も、表の下に明記してください。

「分析して終わり」ではなく、「その日の発注作業ですぐ動ける形」に並べる——ここがEC現場で本当に効くポイントです。

検証:出力を、そのまま使わない

ここが最も大事な工程です。Claudeが整った表を返してきても、それをそのまま発注判断に使ってはいけません。 実際に行った検証を3つ挙げます。

検証 1集計値の突き合わせ
出てきた表の「現在の在庫数」を、元の在庫データと数SKU分、目視で照合。SKUの結合でズレが起きていないか、行が抜け落ちていないかを確認します。SKUコードの表記揺れ(全角半角・ハイフン有無)は実務で普通に起きます。
検証 2計算前提の確認
在庫日数の元になる「平均日販」を、指示どおり直近30日で計算しているか。直近30日にセール期間が含まれていれば、平均日販は実力より高く出ます。その場合は期間を変えて計算し直させます。季節品は90日平均の併記も有効です。
検証 3判定の境界値の妥当性
「在庫日数が何日以下なら要発注か」は、商材の発注リードタイムによって変わります。AIが置いた境界値をうのみにせず、自社のリードタイムに合っているかを人が見直しました。

整理はAIが速い。しかし、計算前提と判定基準が自社に合うかは、人が確かめる。この線引きについては、生成AIに任せていい仕事・任せてはいけない仕事もあわせてお読みください。

アフター:発注判断に効くようになった表

検証を経て出来上がったのが、次のような1枚の表です。

整理後:発注判断できる在庫表(デモ) Claudeで整理して追加した、発注判断に効く列 SKU 在庫数 在庫日数 最終販売からの経過 判定 発注の目安 SKU-A0018012日1日前 要発注早めに発注 SKU-B00724070日5日前 適正様子見 SKU-C015360240日58日前 滞留発注停止・処分検討 ※数値はデモ用の代表例。判定の境界値は、商材のリードタイムに合わせて調整します。
▲ ビフォーは SKU と在庫数だけ。整理後は1行で発注の要否が読める。

ビフォーとの違いは、列の数ではありません。「その列を見れば、次の行動が決まる」列が揃ったことです。在庫日数を見れば発注の緊急度が分かる。最終販売日からの経過を見れば、その在庫が生きているか止まっているかが分かる。判定列を見れば、「要発注」のSKUだけを抜き出して、その日の発注作業に取りかかれます。

整理後にいちばん変わるのは、会議です。「なんとなく多い気がする」「いや、欠品が怖い」という議論が、「在庫日数240日・最終販売58日前・評価額◯万円」という具体的な数字での議論に変わります。在庫日数や滞留の考え方は、3ヶ月以上滞留比率を1分で出す現状把握フレームでも扱っています。

結局、自分でやるには

同じことを自社でやるための、手順と注意点をまとめます。

再現の手順
① 在庫データと販売実績データを、各モールから正規の方法でエクスポートする。② 本記事のプロンプト例を参考に「SKUで突き合わせ、在庫日数と最終販売日経過を出して。計算の前提も併記して」と指示する。③ 出てきた表を検証する——集計値を元データと数件照合し、計算前提を確認し、判定の境界値を自社のリードタイムに合わせる。整理に時間はかかりません。時間をかけるべきは、最後の検証です。

業態別:まず何を一覧化すべきか

どの列から揃えると効果が出やすいかは、業態によって変わります。

型 ASKUが多い型
まず「判定」列で全SKUをふるいにかけることが効きます。数百・数千のSKUを1つずつ見るのは不可能です。「要発注」と「滞留」だけを抽出できる状態を作るのが、最初のゴールです。
型 B季節品中心の型
「最終販売日からの経過日数」を最優先で一覧化します。シーズンが過ぎたSKUは経過日数が一気に伸びます。これを見えるようにしておくと、シーズン終わりの処分判断が早くなります。通年品と同じ在庫日数基準を使うのは危険です。
型 COEM・PB長納期型
「在庫日数」と発注リードタイムを並べて見られる形にします。リードタイムが長い商材は、在庫日数がリードタイムを下回る前に動かないと欠品します。両者を突き合わせる列構成が要になります。
データの扱いの注意
社外秘の情報や、顧客の個人情報を含むデータは、そのままAIに渡さないでください。在庫管理表に顧客名や連絡先が混じっている場合は、その列を削除してから渡す。整理に必要なのは、SKU・数量・日付といった情報だけです。何を渡し、何を渡さないかを決めておくことも、AI活用の一部です。

まとめ

在庫管理表が「発注判断に使えない」のは、表が無いからではなく、判断に必要な列が無いからです。在庫日数、最終販売日からの経過、判定——これらをClaudeで整理して足すだけで、表は「数字の置き場」から「次の行動が読める道具」へ変わります。

ただし、AIで在庫管理がすべて終わるわけではありません。整理はAIが速く、計算前提や判定基準が自社に合うかの検証、そして最終的な発注の決定は、人の仕事です。その役割分担が、この整理を「使える」ものにします。

私たち Arke がデータとAIで取り組んでいるのも、この「判断できる形に整える」工程です。手元の在庫表を、毎週の発注判断に使える1枚へ。在庫最適化の取り組みは、そこから始まります。

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