「在庫が多い気はする。でも分析する時間がない」——

週末の夜、ふと思う。「うちの在庫、本当のところどれくらい寝てるんだろう」。けれど、SKU別に分析する時間も気力もない。Excelを開く前に、せめて事業全体としてざっくり何%が滞留しているのかだけでも、1分で知りたい。

本記事では、まさにそのための「3ヶ月以上滞留比率」を電卓1つで1分で出せるシンプルなフレームと、業態別の健全レンジをご紹介します。月次の経営レビューに、そのまま組み込める軽さで設計しています。

CONTENTS / もくじ
  1. 「3ヶ月以上滞留比率」とは何か、なぜ1分で出す価値があるか
  2. 1分で出す3ステップフレーム(電卓1つでOK)
  3. 業態別 健全レンジ(一律基準を避ける)
  4. 滞留比率が高かった時の3つの選択肢
  5. 月次レビューに組み込む「3分ルール」
  6. 図解:3パターンの可視化
  7. 持ち帰れるツールと、関連記事

「3ヶ月以上滞留比率」とは何か、なぜ1分で出す価値があるか

「3ヶ月以上滞留比率」とは、現在の在庫評価額のうち、ざっくり3ヶ月では売り切れない金額が何%を占めるか を示す代理指標です。SKU単位の在庫日数を1つずつ計算する詳細分析ではなく、事業全体の粒度 で「動いていない在庫はざっくり何%か」を1分で出すことを目的としています。

なぜ詳細分析の前に、こうした粗い指標が必要なのか。理由は2つあります。

理由①:月次の経営レビューに組み込むには、1分で出せる軽さが必須
3時間かかる作業は、毎月の運用には乗らない

理由②:深い分析に入る前に、まず「全体として悪化しているか、安定しているか」のトレンドを掴む方が、優先度の判断として正しい

たとえばSKU別の在庫日数まで完全に分解する詳細アプローチ(5/11公開のA社ケーススタディで紹介した手法)は、初回で3〜4時間 の作業です。毎月やるのは現実的ではありません。

一方、本記事の1分フレームは、毎月初の経営会議の冒頭5分 でできる粒度に設計しています。両者は競合せず、役割が違います


1分で出す3ステップフレーム

3ステップで、本当に1分で出せます。電卓1つで十分です。

STEP 130秒直近3ヶ月の月商を合計する
前月・前々月・3ヶ月前の3ヶ月分の売上を足します。月次の管理表が手元にあれば10秒、なければ販売管理ツールから抜き出して30秒です。
STEP 220秒在庫評価額を月商で割り、何ヶ月分かを出す
在庫月数 = 現在の在庫評価額 ÷(直近3ヶ月の合計売上 ÷ 3)
これがざっくり「今の在庫を、平均的なペースで何ヶ月かけて売り切る量を抱えているか」の指標です。
STEP 310秒3ヶ月を超える分を滞留疑いとして%換算する
滞留比率 ≈(在庫月数 − 3)÷ 在庫月数 × 100%
※ 在庫月数が3以下なら、滞留比率は0%として扱います。

具体例で見る3パターン(月商1,500万のケース)

健全
月商1,500万・在庫4,500万
在庫月数 3.0
滞留比率 0%
要観察
月商1,500万・在庫6,000万
在庫月数 4.0
滞留比率 25%
危険
月商1,500万・在庫9,000万
在庫月数 6.0
滞留比率 50%

このフレームの「限界」をはっきり書いておきます

注意:すべてのSKUが同じスピードで売れる前提
この計算は「すべてのSKUが同じスピードで売れる」という、現実にはあり得ない仮定の上に立っています。実際にはパレートの法則のとおり、売れ筋20%が売上の80%を作るのが普通で、SKU別に見れば滞留はもっと偏在しています。

つまり本フレームは「実態より滞留を控えめに見積もる」性格を持っています。それでも価値があるのは、「1分で出せて、トレンドを見るには十分」だから。

月次で出した数字が 3ヶ月連続で悪化しているなら、SKU単位の実態はそれより悪いと考えてください。

業態別 健全レンジ(一律基準を避ける)

滞留比率の「健全」「要観察」「危険」の境界線は、業態によって大きく動きます。一律の基準を当てはめると、適切な打ち手を見誤ります。

業態別 滞留比率の健全レンジ目安
業態 健全 要観察 危険
国内仕入・回転速い業態(消耗品/流行アパレル)〜20%20〜40%40%超
海外輸入中心(中国・ベトナム等/LT 2〜3ヶ月)〜35%35〜55%55%超
OEM・PB商品中心(最低ロット・工場LT制約大)〜50%50〜70%70%超
サプリ・コスメ系(賞味・使用期限あり)〜25%25〜45%45%超
大型品(家具・大型家電/単価高)〜40%40〜60%60%超

自社が複数業態のミックスなら、売上構成比で加重平均 を取るのが現実的です。「うちの業態だと、健全ラインは何%か」をまず置くこと——これが本フレームの実装の出発点になります。


滞留比率が高かった時の3つの選択肢

滞留比率が自社の健全レンジを超えていたら、何を考えるか。「撤退」と「値引き」は前回までの記事で扱ってきたので、ここでは別の3つの切り口をご紹介します。撤退一辺倒ではなく、もう1ターンだけ攻め筋が残っていないかを確認する打ち手です。

選択肢1:セット販売・バンドル化で抱き合わせる

売れ筋商品と滞留品を組み合わせ、セットとして1点単価で販売。サプリ・コスメ系では「定番品+お試しサイズ」、雑貨系では「人気色+滞留色のペア」が定番。粗利率は若干下がりますが、滞留品の在庫日数を半減させられるなら、十分に勝てる打ち手です。

選択肢2:モール別の配分を見直す

同じSKUでも、楽天では動かないがYahooでは動く、Amazonでは動かないが自社ECでは動く、ということが頻繁に起きます。FBA・3PL・自社倉庫間の在庫配置を見直すだけで、回転速度が上がるケースが。物理移動コストは発生しますが、長期保管手数料や死蔵リスクと天秤にかければ十分元が取れる場合が多いです。

選択肢3:販路を追加する(フリマアプリ・卸・アウトレット)

既存モールで鈍いSKUは、価格感度の高い別チャネルなら捌けることが。メルカリShops・楽天ラクマ等のフリマ系、卸プラットフォーム、アウトレット系ECなど、ブランドイメージとの兼ね合いを見ながら検討する価値があります。「在庫を寝かせ続ける機会損失」と「販路追加のブランドリスク」を比較する判断軸です。

3つに共通するのは、撤退する前に攻め筋を1ターン残しておく 発想です。「値引き/撤退」という強い手の前に、回転を作り直す中庸の選択肢を持っておくと、判断のレパートリーが広がります。


月次レビューに組み込む「3分ルール」

本フレームを月次の経営運用に組み込む方法をご紹介します。「3分ルール」と呼んでいる、シンプルな運用です。

① 1分:月初に滞留比率を出す(在庫評価額・直近3ヶ月の月商を電卓へ)
② 1分:過去3ヶ月分の推移を見る(前月・前々月との比較)
③ 1分:急上昇している月があれば、SKU単位の深掘りに進むかを判断

所要時間 合計3分。経営会議の冒頭5分で十分回せます。

ポイントは、滞留比率の 「絶対値」ではなく「トレンドの変化点」 を見ることです。たとえば3ヶ月連続で右肩上がりになっていたら、それは「在庫構造が変わり始めたサイン」。SKU単位の分解(A社ケースで紹介した詳細分析)に進むタイミングは、ここで決めます。

逆に、トレンドが安定しているなら、毎月の詳細SKU分析は不要です。月3分のチェックだけで、年間で数百万円〜数千万円規模の利益を守れる——多くの経営者にとって、割の良い投資ではないかと思います。


図解:3パターンの可視化

3パターン(健全/要観察/危険)を、月商1,500万円の例で可視化すると、次のようになります。

3ヶ月以上滞留比率の3パターン(月商1,500万のケース) 動いている在庫 滞留疑いゾーン(90日超) ↓ 3ヶ月で売れる量=4,500万 健全 在庫4,500万 在庫月数 3.0 動いている 100% 滞留比率 0% 要観察 在庫6,000万 在庫月数 4.0 動いている 75% 25% 滞留比率 25% 危険 在庫9,000万 在庫月数 6.0 動いている 50% 滞留疑い 50% ※ 棒グラフの長さは在庫評価額に比例。点線より右が「3ヶ月で売り切れない可能性」のゾーン
▲ 同じ月商1,500万でも、在庫評価額が膨らむほど滞留疑いゾーンが視覚的に広がります。

月初の3分ルールでは、この棒グラフを 過去6ヶ月分積み上げて、変化のトレンド を見るのがおすすめです。


持ち帰れるツールと、関連記事

本フレームを Excel に落とし込んだ「滞留比率3ヶ月推移シート」は無料配布しています。月初に「在庫評価額」と「直近3ヶ月の月商」を入力するだけで、滞留比率と推移グラフが自動で更新される設計です。

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まとめ

3ヶ月以上滞留比率」は、在庫評価額と直近3ヶ月の月商があれば、電卓1つ・1分で出せる 粗い代理指標 です。SKU単位の詳細分析の代わりではなく、その前に「全体トレンドを掴む」用途に最適です。

健全レンジは業態によって大きく動くため、必ず自社の業態に当てはめて判断してください。

私たち Arke がデータとAIで取り組んでいるのは、本フレームのような「粗い指標」と、SKU単位の「詳細分析」を、シミュレーションで滑らかに繋ぐ部分です。月次の異常検知から、SKU単位の発注修正まで、AIエージェントが先回りで提案する。それが、月初の3分ルールを 「経営の早期警戒システム」 に変える方法だと考えています。

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