「うちの売れ筋はこれだ」と即答できる経営者は多い。問題は、その答えがどれだけ事実と一致しているか、です。

EC事業者の多くが、売れ筋・死に筋の仕分けを 「肌感覚」 で行っています。「あの商品はよく動いている」「あれは最近見ない」——。経験豊富な担当者ほど、感覚は当てになります。けれど、SKUが数百を超えると、人の感覚は確実に取りこぼします。そして取りこぼしは、過剰在庫と機会損失の両方を生みます。

本記事は、その仕分けをClaudeでやってみた実録です。EC運営でClaudeにできること20選の項目06「売れ筋・死に筋のSKU仕分け」を、実際に手を動かして詳しく見ます。前回のClaudeで在庫管理表を「発注判断できる形」に整理してみたが「表を整える」編だったのに対し、本記事は「整った表で仕分ける」編です。仕分けはAIが速い。ただし「では、どう動かすか」は人が決める。その線引きは変えずに進めます。

CONTENTS / もくじ
  1. ビフォー:感覚での仕分けがズレる3つの理由
  2. やってみた:Claudeに何を渡し、どう指示したか
  3. 検証:出力をそのまま信じない
  4. アフター:仕分けが「次の打ち手」に繋がる
  5. 結局、自分でやるには
  6. まとめ

ビフォー:感覚での仕分けがズレる3つの理由

感覚での仕分けが過剰在庫や機会損失を生むのは、3つの構造があるからです。

ズレ 1売上だけで見て、粗利を見ていない
「売れている商品」を売上高だけで判断すると、よく売れているが粗利が薄い商品が「売れ筋」に紛れ込みます。月100万円売れているが粗利率5%の商品と、月50万円で粗利率30%の商品なら、利益貢献額は後者のほうが大きい。売上TOPが、利益TOPとは限らないのです。
ズレ 2期間が短すぎる、あるいは長すぎる
直近2週間で見ると、たまたまセールやテレビ露出で売れた一時的な動きを「売れ筋」と誤認します。逆に過去2年で見ると、もう売れなくなった旧モデルが過去の累計に救われて「売れ筋」に残り続けます。期間の取り方ひとつで、見えるものが大きく変わります。
ズレ 3新商品と既存商品を、同じ物差しで見ている
発売3ヶ月の新商品と、3年売れている定番品を、同じ「直近の販売数」で比較するのは無理があります。新商品はデータがまだ薄く、本来の実力が見えていない段階。同じ物差しで死に筋に分類してしまうと、育てるべき芽を早期に切る危険があります。

感覚での仕分けがズレる根本は、「単一の物差しで全SKUを見てしまう」 ことです。物差しを増やすほど見え方は正確になりますが、人の頭で複数物差しを同時に動かすのは難しい。ここがAIの出番 です。


やってみた:Claudeに何を渡し、どう指示したか

ここから本記事の核心です。なお、以下のデータは説明のための デモ用の代表例 で、実在企業のデータではありません。

渡したデータ

用意したのは、1つのCSVです。列は 「SKU・商品名・直近90日の販売数・売上・粗利(または原価)・最終販売日・現在の在庫数」。各モールの管理画面と自社の販売管理データから、正規の方法で揃えられます。粗利の代わりに原価を渡し、AIに粗利率を計算させる形でも構いません。個人情報や社外秘の列は、事前に削除してから渡します。

データの形は、こんなイメージです。

渡したCSVのイメージ(デモ用代表例)
SKU商品名販売数売上粗利在庫数最終販売日販売開始日
A001定番サプリA9802,940,0001,176,0004202026-05-292024-08-01
A002季節ギフトB150900,00090,0006002026-05-102025-11-01
A003新商品コスメC120600,000300,0002202026-05-282026-04-20
A004雑貨D40160,00032,0005002026-04-012023-09-01
※ デモ用の代表例。実在企業のSKU・売上・粗利データではありません。

出した指示(プロンプト例)

最初の指示は、次のようなものです。

PROMPT 1 ── 売上×粗利率の4象限で仕分ける
添付のSKUデータを、直近90日の「売上」と「粗利率」の2軸で
4象限に分類してください。
・象限A:売上高 × 粗利率高 → 売れ筋
・象限B:売上低 × 粗利率高 → 隠れ売れ筋
・象限C:売上高 × 粗利率低 → 隠れ死に筋
・象限D:売上低 × 粗利率低 → 死に筋候補
売上と粗利率の境界値は、データの中央値(メジアン)を使ってください。
各SKUがどの象限に入ったかを、表で出力してください。

ポイントは、境界値の決め方をAIに任せきらない ことです。「中央値で」と明示するか、「売上TOP30%」など具体的な基準を渡します。曖昧にすると、境界値が毎回ぶれて再現性が下がります。

続けて、トレンドを見る2つ目の指示を出しました。

PROMPT 2 ── 90日と30日でトレンド変化を抽出する
上の表に「直近30日と過去90日の比較」を加え、
トレンドが変化したSKUを抽出してください。
・「過去90日では死に筋だが、直近30日では伸びている」SKU
・「過去90日では売れ筋だが、直近30日では失速している」SKU
判断には、直近30日の売上を3倍した推定値と、過去90日売上を比較してください。

ECでは、数字の絶対値より変化の方向が経営判断に効くことが多い。トレンド軸を加えるだけで、ABC分析の解像度がぐっと上がります。


検証:出力をそのまま信じない

Claudeの仕分けが返ってきても、そのまま「処分候補」「広告強化候補」に直結させてはいけません。 実際に行った検証を3つ挙げます。

検証 1期間設定の妥当性
直近90日に季節商戦やセール期間が大きく含まれていれば、平常時の実力と乖離します。季節品が混じる場合は、「セール期間を除く90日」など補正をかけた期間で再実行するか、季節品だけ別軸で扱います。
検証 2新商品(データ不足SKU)の扱い
発売後30日未満のSKUは、たとえ売上低と出ても、本来の死に筋とは別物。プロンプトで「発売後◯日未満は『判定保留』に分類」と指示するか、出力結果から手で除外します。育てるべき芽を、早期に切らない。
検証 3粗利率の前提(原価の取り方)
原価の取り方(仕入原価のみか、送料・モール手数料・FBA手数料・広告費まで含むか)で、同じSKUの粗利率は大きく変わります。AIが計算に使った原価の定義を確認し、自社の「粗利」の定義と一致しているかを照合します。

仕分けはAIが速い。けれど、「期間・新商品・原価定義」という前提の妥当性は、人が判断します。線引きは、生成AIに任せていい仕事・任せてはいけない仕事もあわせて。


アフター:仕分けが「次の打ち手」に繋がる

検証を経て出来上がったのが、4つの象限と、それぞれに対応する打ち手です。仕分けただけでは1円も生みません。 仕分けが「次の行動」と結びついて、初めて価値が生まれます。

売上 × 粗利率 の4象限で仕分ける 隠れ売れ筋 (売上低 × 粗利率高) → 広告・露出を強化 売れ筋 (売上高 × 粗利率高) → 発注継続・追加在庫 隠れ死に筋 (売上高 × 粗利率低) → 価格・原価を見直す 死に筋候補 (売上低 × 粗利率低) → 処分・撤退候補 粗利率 売上
▲ 売上TOPだけ見ない。4象限で見ると、打ち手が分かれる。

各象限ごとの打ち手をまとめると、こうなります。

象限 A売れ筋
売上高 × 粗利率高
発注継続と追加在庫。欠品を出さない発注設計に切り替え、必要があれば広告強化で売上をさらに伸ばす。
象限 B隠れ売れ筋
売上低 × 粗利率高
利益率は高いのに売上が伸びていないSKU。広告露出・特集枠・キャッチコピー改善で売上を引き上げる伸びしろ。眠っている粗利を起こす。
象限 C隠れ死に筋
売上高 × 粗利率低
売上は出ているが、利益に寄与していない。価格の見直し・原価の見直し・販売チャネルの見直しが打ち手。「売れているから安心」が最も危ない象限。
象限 D死に筋候補
売上低 × 粗利率低
発注停止と、過剰在庫の処分・撤退の検討が中心。具体的な現金化は過剰在庫を現金化する5つの選択肢へ。

仕分けはAIが速く済ませ、人は 「打ち手の優先順位づけ」と「実行のタイミング」 に集中する。これが、Claudeを使った仕分けの本当の価値です。


結局、自分でやるには

同じ仕分けを自社でやるための、手順と注意点をまとめます。

再現の手順
SKU・販売数・売上・粗利(または原価)・最終販売日・在庫数を含むCSVを揃える。② 本記事のプロンプト例を参考に「売上×粗利率の2軸で4象限に分類して」と指示し、境界値の決め方も明示する。③ トレンド比較(直近30日 vs 過去90日)を依頼。④ 検証——期間の妥当性、新商品の扱い、粗利率の前提を確認し、出力された象限分けを自社の判断に取り込む。

業態別:見るべき象限の重みが違う

4象限の仕分けはどの業態でも有効ですが、「特にどの象限を重く見るか」は業態で変わります

型 ASKUが多い型
最重要:象限D(死に筋候補)の抽出
数百〜数千SKUを抱える型では、象限Dの「死に筋候補」を抽出するのが最も効きます。SKU数が多いほど死に筋に埋もれた在庫が多く、処分による効果が出やすい。
型 B季節品中心の型
最重要:期間を分けた仕分け
季節品は仕分け期間の取り方が肝。シーズン期間とシーズン外で別に4象限を作り、「シーズン中の隠れ売れ筋」「シーズン外でも動く定番」を見分けます。同じSKUでも、期間で象限が変わります。
型 COEM・PB長納期型
最重要:象限C(隠れ死に筋)
1SKUあたりの仕入ロットが大きい型では、象限Cの「隠れ死に筋」が最も痛い。売上が出ていても粗利が薄ければ、長期に資金を縛ったわりに利益が残らない。価格・原価の見直しを最優先で。
データの扱いの注意
顧客の個人情報や、社外秘の情報をそのままAIに渡さないこと。仕分けに必要なのは、SKU・販売数・売上・粗利・在庫数といった内部数値のみで、個人情報は不要です。CSVに混じっている場合は、列を削除してから渡します。

まとめ

SKUの売れ筋・死に筋を感覚で判断すると、売上だけ・期間の偏り・新商品と既存品の同一物差し、という3つのズレが起きやすくなります。Claudeに「売上×粗利率」の2軸で4象限に仕分けさせれば、SKUが数百あっても短時間で整理でき、隠れ売れ筋と隠れ死に筋まで浮かび上がります

ただし、仕分けはAIが速い、というだけです。期間設定・新商品の扱い・原価定義の妥当性は人が確認し、「どの象限に何を当てるか」「いつ動かすか」も人の判断です。仕分けと判断を分けて運用すれば、SKUの多さは弱点ではなくなります

私たち Arke がデータとAIで取り組んでいるのも、この「仕分けと判断を分ける」設計です。AIで整理した4象限の上に、人の優先順位づけが乗る。それが、SKUの多さに振り回されない在庫運営の土台になります。

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