在庫日数の計算方法は、業態によって「①リードタイム+安全在庫」「②季節補正(シーズン中/外で別管理)」「③リードタイム+発注サイクル÷2+安全在庫」の3つの公式に分かれます。本記事では、この3公式と3社のモデル計算例を、そのまま自社に当てはめて使える形で紹介します。
在庫日数の出し方は、この3ステップで終わります。①月間売上原価を出す(月商 × 原価率)②30で割って1日あたりの売上原価を出す ③在庫金額をそれで割る。在庫回転率がすでに分かっているなら「365 ÷ 在庫回転率」でも求められます。月単位で見たい場合は分母を月間売上原価にすれば「何ヶ月分か」がそのまま出ます。
そのうえで、多くの方が本当に知りたいのは「で、うちは何日が適正なのか」ではないでしょうか。適正在庫日数は業態によって変わるため、本記事では業態を3つに大別し、それぞれの計算式とモデル計算例(21日/24日/120日)まで示します。なお、本記事の数字はモデル値・代表的傾向で、実在企業のものではありません。業態別の目安レンジから確認したい方は在庫日数、業態別の目安は何日か(ベンチマーク7パターン)、回転率とあわせて把握したい方は在庫回転率の目安と業界別ベンチマークもご覧ください。
- 在庫日数の計算方法(基本の式)
- 適正在庫日数の3つの構成要素(1分でおさらい)
- 業態別の3つの計算式
- モデル会社3社で計算してみる
- 「で、安全在庫日数は何日にする?」
- 結局、どうすればいいのか
- 図解:3つの式の構造と計算例
- まとめ
在庫日数の計算方法(基本の式)
まず、いま自社の在庫が何日分あるのかを出す式です。これが「在庫日数の計算方法」の基本形になります。
※ 1日あたりの売上原価 = 月間売上原価 ÷ 30日(年間で見るなら 年間売上原価 ÷ 365日)
数量ベースで出したい場合は、金額を数量に置き換えるだけです。
計算例:月商1,200万円・原価率60%・在庫金額600万円の場合
- 月間売上原価 = 1,200万円 × 60% = 720万円
- 1日あたりの売上原価 = 720万円 ÷ 30日 = 24万円
- 在庫日数 = 600万円 ÷ 24万円 = 25日
つまり「いまの在庫は25日分」ということになります。計算自体は、この3ステップで終わりです。
在庫回転率から出す方法
すでに在庫回転率が分かっているなら、割り算1回で出せます。
例:在庫回転率が年12回転なら、365 ÷ 12 = 約30日
月次で見ている場合は、365を30に置き換えてください。在庫回転率そのものの求め方は在庫回転率の目安と業界別ベンチマークで解説しています。
適正在庫日数の3つの構成要素(1分でおさらい)
適正在庫日数を組み立てる構成要素は、3つあります。
業態別の3つの計算式
業態を3つに大別します。昨日の7パターンを、計算式の観点で集約したものです。
ベンチマーク①B2C高回転コモディティ(15〜30日)、②B2C一般物販(30〜60日)、⑦食品・賞味期限あり(20〜45日)が当てはまります。
シーズン外:「次シーズンまで保管する量」として別管理
たとえば母の日商材なら、5月以降に残った在庫を「来年まで持つか/処分するか」で判断します。ここを通常の在庫日数で評価すると、「在庫日数300日だから異常だ」という誤った判断になりかねません。ベンチマーク④季節品中心型が該当します。
ベンチマーク③B2B標準品卸(45〜90日)、⑤OEM・PB長納期(60〜120日)、⑥SKU多品種少量(90〜180日)が当てはまります。
モデル会社3社で計算してみる
実際にモデルケースで計算してみます。
安全在庫(土日含む需要のばらつき吸収): 14日
計算: 7 + 14
[シーズン中] 安全在庫: 10日
計算: 14 + 10
[シーズン外] 次シーズンまでの保管量を別計算
=(次シーズン想定需要 × 仕入予定の前倒し量)
発注サイクル: 60日(2ヶ月に1回の発注に集約)
安全在庫: 30日
計算: 60 + 60÷2 + 30
3社の数字を並べると、業態の違いがそのまま日数の違いに表れます。21日と120日、約6倍の差。この差は「優劣」ではなく、業態構造の差です。 在庫日数が長いC社が、A社より劣っているわけではありません。それぞれの業態構造に応じた「健全な水準」が違うだけ。だからこそ、単純な業界平均は意味を持ちません。在庫日数の経済効果は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたで扱っています。
「で、安全在庫日数は何日にする?」
3つの式すべてに登場する「安全在庫日数」。これをどう決めるかは、別記事で詳しく扱います。
理論上は、平均日次需要 × √リードタイム × サービスレベル係数、という古典的な計算式があります。需要の標準偏差を計算し、欠品許容率(95%なのか99%なのか)を決めれば、安全在庫の必要量が出ます。
ただし、中小ECで需要の標準偏差を正確に計算するのは、現実的には負担が大きい。経験則として「需要のピーク2週間分」「リードタイムの50〜100%相当」を起点に置き、月次で実績と突き合わせて調整する、というのが実用的なアプローチです。
結局、どうすればいいのか
計算式は出発点であって、固定の解ではありません。
月次で「計算値 vs 実績値」のズレを追う
実績の在庫日数が、計算値から継続的にズレているなら、式の前提を疑います。リードタイムが実際は何日か、安全在庫が機能しているか、発注サイクルが実態と合っているか。たとえば計算上は60日が適正なのに、実績が100日で推移しているなら、どこかに問題があります。逆に、計算上60日なのに常に30日しかなく欠品が続くなら、安全在庫が不足しているかもしれません。在庫日数とCCCの関係はキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかで扱っています。
業態別:最初に見直すべき変数
業態によって、最初に動かすべき変数は変わります。共通するのは、計算結果を「設定して終わり」にせず、月次で観察し続けることです。FBA保管料の積み上がりも在庫日数延長の典型的な副作用ですので、FBA保管料、1日10円が3年で◯百万円になる雪だるま現象も合わせて参照してください。
図解:3つの式の構造と計算例
3つの式を、構造と計算例で1枚に整理しました。
よくある質問
A. 「在庫金額 ÷ 1日あたりの売上原価」です。1日あたりの売上原価は「月間売上原価 ÷ 30」で出します。在庫600万円・月間売上原価720万円なら、600 ÷ (720÷30) = 25日です。
A. 分母を「月間売上原価 ÷ 30日」にすれば、答えは日数で出ます。月数で見たい場合は「在庫金額 ÷ 月間売上原価」で、そのまま何ヶ月分かが出ます(例:600万 ÷ 720万 = 0.83ヶ月 ≒ 25日)。
A. ほぼ同じ意味で使われます。どちらも「在庫が何日分あるか」を表す指標です。在庫回転率(年に何回転するか)とは逆数の関係にあり、「在庫日数 = 365 ÷ 在庫回転率」で相互に変換できます。
A. 売価ベースでも計算できます。「在庫(売価換算)÷ 1日あたり売上高」で出してください。ただし原価ベースと数字が変わるため、社内で基準をどちらかに統一することが重要です。期をまたいで比較するときに、基準が混在していると意味のない数字になります。
A. できます。「在庫数量 ÷ 1日あたりの出荷数量」で求めます。金額ベースは全社・カテゴリ単位の資金効率を見るのに向き、数量ベースは単品(SKU)単位の欠品・過剰を見るのに向きます。SKUごとの発注判断をしたい場合は数量ベースを使ってください。
A. 「在庫金額 ÷(年間売上原価 ÷ 365日)」です。月次の式(÷30日)と年次の式(÷365日)は、季節変動の大きい商材だと結果が数十日ずれることがあります。季節性がある場合は年次だけで判断せず、月次でも並行して見てください。
A. 業態によって大きく変わります。回転の速いコモディティなら20日前後、OEM・PB長納期型なら100日を超えることもあります。本記事の「業態別の3つの計算式」で、自社の前提から適正値を算出できます。
まとめ
適正在庫日数の計算式は、業態によって3つに分かれます。①回転型(LT+安全在庫)/②季節補正型(シーズン内外で別管理)/③ロット制約型(LT+発注サイクル÷2+安全在庫)。3社のモデル計算では、業態によって21日/24日/120日と大きく違いますが、これは優劣ではなく構造の違いです。
昨日のベンチマーク記事では「どのレンジにいるべきか」を整理しました。今日の記事では「そのレンジの中で何日を目指すか」を計算式として整理しました。重要なのは、回転型/季節補正型/ロット制約型のどれに自社が近いかを把握すること。そして、計算式で出した数字を毎月見直しながら調整していくことです。
計算結果は出発点。月次で実績との差を追い、前提を見直していくのが運用です。在庫日数は「設定して終わる数字」ではなく、「観察し続ける指標」です。式は腹落ちのための道具で、月次運用が本当の答えです。
私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「自社業態に合った在庫日数の式と運用」の設計支援です。式は出発点、運用が答え――この姿勢が、適正在庫日数を「守る数字」から「育てる数字」に変えます。次回(6/11木)は、3つの式すべてに登場する「発注点」と「リードタイム逆算」の3ステップを扱います。
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