「業態別の目安レンジは見えた。では、うちは何日に設定すべきか」――昨日のベンチマーク記事の続きを、今日は計算式で書きます。ベンチマークは地図、計算式が一歩前進です。

6/7公開の在庫日数、業態別の目安は何日か(ベンチマーク7パターン)で、自社の目安レンジは見えたはずです。しかし、レンジは幅です。「自社は30〜60日のレンジ」と分かっても、「で、何日に設定するか」を出すには、計算式が要ります。

本記事では、業態を3つに大別し、それぞれの計算式と計算例を示します。「これだけが正解」という式ではなく、業態と前提に応じた式です。計算結果は出発点で、月次でモニタリングして修正していく前提です。なお、本記事の数字はモデル値・代表的傾向で、実在企業のものではありません。

目次
  1. 適正在庫日数の3つの構成要素(1分でおさらい)
  2. 業態別の3つの計算式
  3. モデル会社3社で計算してみる
  4. 「で、安全在庫日数は何日にする?」
  5. 結局、どうすればいいのか
  6. 図解:3つの式の構造と計算例
  7. まとめ

適正在庫日数の3つの構成要素(1分でおさらい)

適正在庫日数を組み立てる構成要素は、3つあります。

ELEMENT 01
リードタイム(LT)
仕入発注を出してから、入荷して在庫として手元に並ぶまでの日数。海外発注なら30〜90日、国内卸なら数日〜2週間が代表的なレンジ。リードタイムが長いほど、必要在庫は構造的に増えます。
ELEMENT 02
安全在庫日数
需要のばらつきや、リードタイムのブレを吸収するためのバッファ。商材と販路で必要量は変わります。リードタイム分だけ持つと欠品リスクが高いため、必須の要素です。
ELEMENT 03
発注サイクル日数
次の発注までの間隔。毎日発注なら1日、月次発注なら30日。発注ロットが大きいほど、サイクルは長くなります。発注頻度が低いほど、必要在庫も増えます。
業態によって、3要素のどれが効くかが変わります。回転の速いコモディティは「リードタイム+安全在庫」だけで足ります。OEM・PB長納期型は、発注サイクルが長いため、その半分も加味します。「どの要素を式に入れるか」が業態で違う――これが3つの式に分かれる理由です。

業態別の3つの計算式

業態を3つに大別します。昨日の7パターンを、計算式の観点で集約したものです。

式 ①
対象:B2C高回転コモディティ・一般物販EC・食品EC・消耗品EC
回転型
FORMULA
適正在庫日数 = リードタイム + 安全在庫日数
最もシンプルな式です。需要が定常的で、発注がほぼ毎日〜数日サイクル、最低発注ロットの制約が小さい商材に使います。発注サイクルが短いため、サイクル日数の影響は小さく、式から省略しても実用上問題ありません。

ベンチマーク①B2C高回転コモディティ(15〜30日)、②B2C一般物販(30〜60日)、⑦食品・賞味期限あり(20〜45日)が当てはまります。
式 ②
対象:季節品中心型(ギフト・季節イベント・シーズンアパレル・季節雑貨)
季節補正型
FORMULA
シーズン中:リードタイム + 安全在庫
シーズン外:「次シーズンまで保管する量」として別管理
季節品は、通常商品と同じ式では管理できません。理由は明確で、需要が年間で均等に発生しないからです。シーズン中は回転型と同じ式、シーズン外は「次シーズンまで持っておく量」として別の管理ルールを当てます。

たとえば母の日商材なら、5月以降に残った在庫を「来年まで持つか/処分するか」で判断します。ここを通常の在庫日数で評価すると、「在庫日数300日だから異常だ」という誤った判断になりかねません。ベンチマーク④季節品中心型が該当します。
式 ③
対象:OEM・PB長納期・B2B標準品卸・海外生産・SKU多品種少量
ロット制約型
FORMULA
適正在庫日数 = リードタイム + 発注サイクル日数 ÷ 2 + 安全在庫日数
最低発注ロットが大きく、発注頻度が抑えられる業態に使います。発注サイクルの半分を加算するのは、月1回発注の場合、発注直後が最も在庫量が多く、次回発注直前が最も少なくなるため、平均すると発注サイクルの半分程度を在庫として抱えている状態になるためです(厳密な数学的議論はありますが、本記事は腹落ち優先で「半分」と置きます)。

ベンチマーク③B2B標準品卸(45〜90日)、⑤OEM・PB長納期(60〜120日)、⑥SKU多品種少量(90〜180日)が当てはまります。
OEMやPB事業者が「在庫日数100日超」になりやすいのは、管理が悪いからではありません。構造上そうなりやすいだけです。重要なのは、その前提を理解した上で式①の数字と比較しないこと。式③で適切な数字を持ち、月次で運用することです。

モデル会社3社で計算してみる

実際にモデルケースで計算してみます。

A社(B2C雑貨EC)式①
リードタイム(国内卸): 7日
安全在庫(土日含む需要のばらつき吸収): 14日
計算: 7 + 14
適正在庫日数 = 21日
B社(季節ギフトEC、シーズン重視)式②
[シーズン中] リードタイム: 14日
[シーズン中] 安全在庫: 10日
計算: 14 + 10
[シーズン外] 次シーズンまでの保管量を別計算
 =(次シーズン想定需要 × 仕入予定の前倒し量)
シーズン中 24日 / 外 別管理
C社(OEM長納期EC)式③
リードタイム(海外OEM): 60日
発注サイクル: 60日(2ヶ月に1回の発注に集約)
安全在庫: 30日
計算: 60 + 60÷2 + 30
適正在庫日数 = 120日

3社の数字を並べると、業態の違いがそのまま日数の違いに表れます。21日と120日、約6倍の差。この差は「優劣」ではなく、業態構造の差です。 在庫日数が長いC社が、A社より劣っているわけではありません。それぞれの業態構造に応じた「健全な水準」が違うだけ。だからこそ、単純な業界平均は意味を持ちません。在庫日数の経済効果は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたで扱っています。

「で、安全在庫日数は何日にする?」

3つの式すべてに登場する「安全在庫日数」。これをどう決めるかは、別記事で詳しく扱います。

理論上は、平均日次需要 × √リードタイム × サービスレベル係数、という古典的な計算式があります。需要の標準偏差を計算し、欠品許容率(95%なのか99%なのか)を決めれば、安全在庫の必要量が出ます。

ただし、中小ECで需要の標準偏差を正確に計算するのは、現実的には負担が大きい。経験則として「需要のピーク2週間分」「リードタイムの50〜100%相当」を起点に置き、月次で実績と突き合わせて調整する、というのが実用的なアプローチです。

安全在庫は「経験則で決める数字」ではなく、「**需要のばらつきから逆算する数字**」――この姿勢だけ持っておいてください。詳しい計算は、6/14(日)公開予定の安全在庫記事「安全在庫日数は何日か、需要のばらつきから逆算する3つの方法」で扱います。

結局、どうすればいいのか

計算式は出発点であって、固定の解ではありません。

月次で「計算値 vs 実績値」のズレを追う

実績の在庫日数が、計算値から継続的にズレているなら、式の前提を疑います。リードタイムが実際は何日か、安全在庫が機能しているか、発注サイクルが実態と合っているか。たとえば計算上は60日が適正なのに、実績が100日で推移しているなら、どこかに問題があります。逆に、計算上60日なのに常に30日しかなく欠品が続くなら、安全在庫が不足しているかもしれません。在庫日数とCCCの関係はキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかで扱っています。

業態別:最初に見直すべき変数

B2C高回転型
最初に動かす:リードタイム短縮
仕入先との関係強化で納期を1〜2日縮められれば、在庫日数も比例して縮みます。仕入頻度を上げる方が効果的。
季節品型
最初に動かす:シーズン外の「持ち越し量」見直し
次シーズンの需要予測精度を上げ、持ち越しを最小化します。シーズン前の積み上げ量が、利益を大きく左右します。
OEM・PB長納期型
最初に動かす:発注サイクルとロットの見直し
サイクルを月次から2ヶ月に伸ばせばロット効率は上がりますが、在庫日数は伸びます。トレードオフを意識した決定が要ります。最も改善余地が大きいポイント。

業態によって、最初に動かすべき変数は変わります。共通するのは、計算結果を「設定して終わり」にせず、月次で観察し続けることです。FBA保管料の積み上がりも在庫日数延長の典型的な副作用ですので、FBA保管料、1日10円が3年で◯百万円になる雪だるま現象も合わせて参照してください。

図解:3つの式の構造と計算例

3つの式を、構造と計算例で1枚に整理しました。

業態別 適正在庫日数 ── 3つの計算式 式①【回転型】 B2C高回転・一般物販・食品 公式 LT + 安全在庫 A社・計算例 LT 7日 + 安全 14日 = 21日 発注頻度高、ロット制約小 式②【季節補正型】 季節品中心型 公式 シーズン中:LT+安全 シーズン外:別管理 B社・計算例 LT 14日 + 安全 10日 中24日 / 外別 需要が3週間〜3ヶ月に集中 式③【ロット制約型】 OEM・PB長納期・B2B卸 公式 LT + サイクル÷2 + 安全 C社・計算例 LT 60日 + サイクル 30日 + 安全 30日 = 120日 発注頻度低、ロット制約大 ※ 3社で21日/24日/120日。差は優劣ではなく業態構造の違い。計算結果は出発点、月次で見直す。
▲ 3つの式は業態構造の違いをそのまま反映。月次で実績との差を追う運用が前提。

まとめ

適正在庫日数の計算式は、業態によって3つに分かれます。①回転型(LT+安全在庫)/②季節補正型(シーズン内外で別管理)/③ロット制約型(LT+発注サイクル÷2+安全在庫)。3社のモデル計算では、業態によって21日/24日/120日と大きく違いますが、これは優劣ではなく構造の違いです。

昨日のベンチマーク記事では「どのレンジにいるべきか」を整理しました。今日の記事では「そのレンジの中で何日を目指すか」を計算式として整理しました。重要なのは、回転型/季節補正型/ロット制約型のどれに自社が近いかを把握すること。そして、計算式で出した数字を毎月見直しながら調整していくことです。

計算結果は出発点。月次で実績との差を追い、前提を見直していくのが運用です。在庫日数は「設定して終わる数字」ではなく、「観察し続ける指標」です。式は腹落ちのための道具で、月次運用が本当の答えです。

私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「自社業態に合った在庫日数の式と運用」の設計支援です。式は出発点、運用が答え――この姿勢が、適正在庫日数を「守る数字」から「育てる数字」に変えます。次回(6/11木)は、3つの式すべてに登場する「発注点」と「リードタイム逆算」の3ステップを扱います。

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