6/7公開の在庫日数、業態別の目安は何日か(ベンチマーク7パターン)で、自社の目安レンジは見えたはずです。しかし、レンジは幅です。「自社は30〜60日のレンジ」と分かっても、「で、何日に設定するか」を出すには、計算式が要ります。
本記事では、業態を3つに大別し、それぞれの計算式と計算例を示します。「これだけが正解」という式ではなく、業態と前提に応じた式です。計算結果は出発点で、月次でモニタリングして修正していく前提です。なお、本記事の数字はモデル値・代表的傾向で、実在企業のものではありません。
- 適正在庫日数の3つの構成要素(1分でおさらい)
- 業態別の3つの計算式
- モデル会社3社で計算してみる
- 「で、安全在庫日数は何日にする?」
- 結局、どうすればいいのか
- 図解:3つの式の構造と計算例
- まとめ
適正在庫日数の3つの構成要素(1分でおさらい)
適正在庫日数を組み立てる構成要素は、3つあります。
業態別の3つの計算式
業態を3つに大別します。昨日の7パターンを、計算式の観点で集約したものです。
ベンチマーク①B2C高回転コモディティ(15〜30日)、②B2C一般物販(30〜60日)、⑦食品・賞味期限あり(20〜45日)が当てはまります。
シーズン外:「次シーズンまで保管する量」として別管理
たとえば母の日商材なら、5月以降に残った在庫を「来年まで持つか/処分するか」で判断します。ここを通常の在庫日数で評価すると、「在庫日数300日だから異常だ」という誤った判断になりかねません。ベンチマーク④季節品中心型が該当します。
ベンチマーク③B2B標準品卸(45〜90日)、⑤OEM・PB長納期(60〜120日)、⑥SKU多品種少量(90〜180日)が当てはまります。
モデル会社3社で計算してみる
実際にモデルケースで計算してみます。
安全在庫(土日含む需要のばらつき吸収): 14日
計算: 7 + 14
[シーズン中] 安全在庫: 10日
計算: 14 + 10
[シーズン外] 次シーズンまでの保管量を別計算
=(次シーズン想定需要 × 仕入予定の前倒し量)
発注サイクル: 60日(2ヶ月に1回の発注に集約)
安全在庫: 30日
計算: 60 + 60÷2 + 30
3社の数字を並べると、業態の違いがそのまま日数の違いに表れます。21日と120日、約6倍の差。この差は「優劣」ではなく、業態構造の差です。 在庫日数が長いC社が、A社より劣っているわけではありません。それぞれの業態構造に応じた「健全な水準」が違うだけ。だからこそ、単純な業界平均は意味を持ちません。在庫日数の経済効果は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたで扱っています。
「で、安全在庫日数は何日にする?」
3つの式すべてに登場する「安全在庫日数」。これをどう決めるかは、別記事で詳しく扱います。
理論上は、平均日次需要 × √リードタイム × サービスレベル係数、という古典的な計算式があります。需要の標準偏差を計算し、欠品許容率(95%なのか99%なのか)を決めれば、安全在庫の必要量が出ます。
ただし、中小ECで需要の標準偏差を正確に計算するのは、現実的には負担が大きい。経験則として「需要のピーク2週間分」「リードタイムの50〜100%相当」を起点に置き、月次で実績と突き合わせて調整する、というのが実用的なアプローチです。
結局、どうすればいいのか
計算式は出発点であって、固定の解ではありません。
月次で「計算値 vs 実績値」のズレを追う
実績の在庫日数が、計算値から継続的にズレているなら、式の前提を疑います。リードタイムが実際は何日か、安全在庫が機能しているか、発注サイクルが実態と合っているか。たとえば計算上は60日が適正なのに、実績が100日で推移しているなら、どこかに問題があります。逆に、計算上60日なのに常に30日しかなく欠品が続くなら、安全在庫が不足しているかもしれません。在庫日数とCCCの関係はキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかで扱っています。
業態別:最初に見直すべき変数
業態によって、最初に動かすべき変数は変わります。共通するのは、計算結果を「設定して終わり」にせず、月次で観察し続けることです。FBA保管料の積み上がりも在庫日数延長の典型的な副作用ですので、FBA保管料、1日10円が3年で◯百万円になる雪だるま現象も合わせて参照してください。
図解:3つの式の構造と計算例
3つの式を、構造と計算例で1枚に整理しました。
まとめ
適正在庫日数の計算式は、業態によって3つに分かれます。①回転型(LT+安全在庫)/②季節補正型(シーズン内外で別管理)/③ロット制約型(LT+発注サイクル÷2+安全在庫)。3社のモデル計算では、業態によって21日/24日/120日と大きく違いますが、これは優劣ではなく構造の違いです。
昨日のベンチマーク記事では「どのレンジにいるべきか」を整理しました。今日の記事では「そのレンジの中で何日を目指すか」を計算式として整理しました。重要なのは、回転型/季節補正型/ロット制約型のどれに自社が近いかを把握すること。そして、計算式で出した数字を毎月見直しながら調整していくことです。
計算結果は出発点。月次で実績との差を追い、前提を見直していくのが運用です。在庫日数は「設定して終わる数字」ではなく、「観察し続ける指標」です。式は腹落ちのための道具で、月次運用が本当の答えです。
私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「自社業態に合った在庫日数の式と運用」の設計支援です。式は出発点、運用が答え――この姿勢が、適正在庫日数を「守る数字」から「育てる数字」に変えます。次回(6/11木)は、3つの式すべてに登場する「発注点」と「リードタイム逆算」の3ステップを扱います。
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