「在庫が減ってきたら発注」「経験で何となく」――この判断方法だと、欠品か過剰のどちらかに振れます。発注点を式で持つだけで、判断は驚くほど安定する。

6/7・6/8の続編です。在庫日数、業態別の目安は何日か(ベンチマーク7パターン)で目安レンジ、適正在庫日数は何日か、業態別の3つの計算式で日数の式が分かりました。残るのは「では、いつ発注するか」。本記事は、そのタイミングを発注点(ROP)の式で具体的に決める、操作レベルの記事です。

多くの現場では「在庫が少なく見えてきたら発注」「前回と同じタイミングで発注」「ベテラン担当者の感覚で発注」という運用が行われています。もちろん経験は重要ですが、担当者が変わると判断が変わる/売上が伸びると欠品が増える/仕入先が遅れると対応できない、という問題が発生します。

⚠ 「発注点を守れば欠品しない」という話ではありません。需要変動・リードタイム変動があり、安全在庫でそれを吸収する設計になっていても、想定外の事態は起き得ます。本記事の目的は、「経験で何となく」を「決めの数字」に置き換え、月次で実績と照合し続ける運用に切り替えることです。
目次
  1. 発注点とは(1分でおさらい)
  2. リードタイム逆算の3ステップ
  3. モデル3社で発注点を計算してみる
  4. よくある落とし穴と対処
  5. 結局、どうすればいいのか
  6. 図解:3ステップ × モデル3社のマトリクス
  7. まとめ+次回予告

発注点とは(1分でおさらい)

発注点(Reorder Point, ROP)は、「在庫がこの数値を割ったら発注する」閾値です。基本式はシンプルです。

BASIC FORMULA
発注点(ROP)= リードタイム中の予想需要量 + 安全在庫
適正在庫日数(6/8)が「どれだけ持つか」を示すのに対し、発注点は「いつ動くか」を示します。両方が揃って、初めて在庫管理は数字で回るようになります。6/8の適正在庫日数は在庫水準全体を考えるための指標、発注点は日々の発注判断に使う実務指標、という関係です。

リードタイム中の予想需要量は「リードタイム期間中に売れる量」、安全在庫は「需要やリードタイムのブレを吸収するバッファ」です。次のセクションで、それぞれを具体的に計算します。

リードタイム逆算の3ステップ

STEP 01
リードタイム中の予想需要量を出す
平均日次需要 × リードタイム日数
例:10個 × 7日 = 70個
発注してから商品が届くまでに何個売れるか、を計算します。

ポイントは、平均日次需要のデータの取り方。直近30日の平均だと一時的な動きに引っ張られ、直近90日の平均だと季節やトレンドの変化を捉えきれません。商材によって30日/60日/90日を使い分け、季節要因が大きい商材ではシーズン補正を入れます。重要なのは「実態に近い需要量」を使うこと。
STEP 02
安全在庫を加算する
平均日次需要 × 安全在庫日数(10〜30日が代表的)
例:10個 × 14日 = 140個
現実には、売上が急に増える/仕入先が遅れる/物流が混雑する、といったことが起きます。そこで余裕を持たせるために安全在庫を追加します。

安全在庫は保険です。保険がなければ欠品リスクが上がります。しかし厚く持ちすぎると、キャッシュが寝る/保管料が増える/滞留在庫が増える、という副作用も。安全在庫日数の決め方には、需要の標準偏差を使った古典的計算式もありますが、中小ECで標準偏差を厳密に運用するのは負担が大きい。経験則として、需要のピーク2週間分、またはリードタイムの50〜100%相当を起点に置き、月次で調整するのが実用的。詳しい計算は6/14公開予定の安全在庫記事で扱います。
STEP 03
「在庫がこの値になったら発注」のラインを設定
発注点 = STEP01 + STEP02
例:70 + 140 = 210個 → 在庫が210個を割ったら発注
このラインを社内で共有し、発注担当が機械的に判断できる状態にします。担当者の経験則ではなく、決めの数字で回す。月次で実績と照合し、ズレが続いたら式の前提を見直します。

モデル3社で発注点を計算してみる

業態が違うと発注点も大きく変わります。同じ式・違う数字、業態構造がそのまま発注タイミングに反映されます。

A社(B2C雑貨EC)短LT・回転型
平均日次需要: 10個
リードタイム(国内卸): 7日
安全在庫日数: 14日
STEP01(LT中需要): 10 × 7 = 70個
STEP02(安全在庫): 10 × 14 = 140個
発注点 = 210個
B社(季節ギフトEC・シーズン中)中LT・季節型
平均日次需要: 30個(シーズン中)
リードタイム: 14日
安全在庫日数: 10日
STEP01: 30 × 14 = 420個
STEP02: 30 × 10 = 300個
発注点 = 720個
C社(OEM長納期EC)長LT・ロット制約型
平均日次需要: 5個
リードタイム(海外OEM): 60日
安全在庫日数: 30日
STEP01: 5 × 60 = 300個
STEP02: 5 × 30 = 150個
発注点 = 450個

3社の発注点は、210個/720個/450個と大きく違います。これは「優劣」ではなく、業態構造の違いがそのまま発注タイミングに反映された結果です。A社は発注頻度が高く小さく回し、B社はシーズン中に大きく動かし、C社は長LTを安全在庫で吸収する――式は同じでも、運用イメージは大きく違います。在庫構造が運転資金に直結する話はキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかで扱っています。

よくある落とし穴と対処

発注点を計算しても、前提が間違っていると意味がありません。

PITFALL 01
平均日次需要を「最終1ヶ月だけ」で出す
直近1ヶ月だけだと、季節変動や一時的なイベントに引っ張られます。夏商材を冬の実績で計算すると、大幅に欠品する典型例。「過去30日/60日/90日」を並べて見て、商材特性に合った期間を選ぶのが基本。季節性がある商品は前年実績も確認します。
PITFALL 02
リードタイムを「短い時の値」で固定する
リードタイムには変動があります。仕入先がいつも最速で納品するとは限らず、繁忙期・連休・天候による遅延で通常7日が14日かかることも。「最短LT」ではなく「平均LT+ブレ幅」で持つのが安全です。実績で5〜10日のブレがあるなら、計算には8〜10日を使う。
PITFALL 03
安全在庫を「過去欠品時の経験値」で決める
「あの時危なかったから厚めに」と決めると、安全在庫が過剰になりがちです。経験値はスタート地点としては有用ですが、月次で実績と照合し、必要量を調整していきます。安全在庫は恐怖心ではなく、データで決める。在庫減の利益効果は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたでも扱っています。

結局、どうすればいいのか

3ステップは出発点で、運用が答えです。

月次で実績と照合し、式の前提を見直す

実績の在庫推移と発注タイミングを月次で確認。欠品が起きていれば安全在庫を厚くする、過剰が続いていれば安全在庫日数を見直す。式の数字を「設定して終わり」にしないことが、最重要です。

PRINCIPLE
発注点は「決めたら終わり」ではない
毎月、実際に欠品したか/在庫が余ったか/リードタイムが変化したかを確認します。ズレが続くなら、平均需要・リードタイム・安全在庫の前提を見直す。発注点は「守る数字」ではなく「育てる数字」です。

全SKUを一度にやらない、主要20〜30品から始める

SKUが数百〜数千ある場合、全SKUに発注点を設定するのは現実的ではありません。売上上位20〜30品(パレート上位)から始め、3ヶ月で運用を安定させてから、隣のSKUグループに広げます。

業態別:最初に整えるステップ

B2C高回転型
最初に整える:STEP01の平均日次需要の精度
直近30日/90日の使い分けがそのまま発注点に効きます。日次販売数の集計を週次で見る習慣をつけるのが第一歩。
季節品中心型
最初に整える:STEP01のシーズン補正
シーズン中とシーズン外で別の発注点を持つのが基本。前年同時期との比較を取り入れる。発注点を2セット(シーズン中/シーズン外)持つ運用も検討。
OEM・PB長納期型
最初に整える:STEP02の安全在庫の見極め
リードタイムが長いぶん、ブレを吸収する安全在庫の重みが大きくなります。需要よりも納期遅延の影響が大きいので、リードタイム実績のばらつきから安全在庫を逆算する考え方が要。

業態によって、最初に整えるステップは変わります。共通するのは、3ステップを月次で回し続ける習慣を持つことです。

図解:3ステップ × モデル3社のマトリクス

3ステップとモデル3社の発注点計算を1枚に整理しました。

発注点(ROP)の計算 ── 3ステップ × モデル3社 3ステップ A社・B2C雑貨 B社・季節品 C社・OEM長納期 STEP 01 LT中需要 日次×LT 10個 × 7日 = 70個 30個 × 14日 = 420個 5個 × 60日 = 300個 STEP 02 安全在庫 日次×安全在庫日数 10個 × 14日 = 140個 30個 × 10日 = 300個 5個 × 30日 = 150個 STEP 03 発注点 ROP ①+② 70 + 140 = 210個 420 + 300 = 720個 300 + 150 = 450個 ※ 3社の発注点の差は、業態構造の差(短LT回転型/中LT季節型/長LTロット制約型)をそのまま反映。
▲ 式は同じ、数字が違う。業態構造がそのまま発注点に表れる。

まとめ+次回予告

発注点の基本式は1つ。ROP = リードタイム中の予想需要量 + 安全在庫。3ステップで計算すれば、A社 210個/B社 720個/C社 450個と、業態構造に応じた具体的な発注タイミングが出ます。「経験で何となく」が「決めの数字」に変わると、発注判断は安定します。

ただし、式は出発点。月次で実績と照合し、需要・リードタイムのブレを見ながら調整していくのが運用です。需要変動やリードタイム変動は常に起こります。だからこそ、月次で見直す/上位SKUから始める/業態に合わせて調整する――この3つが、発注点を「決めたら終わりの数字」から「育てる仕組み」に変えます。

次回6/14(日)は、3ステップすべてに登場する「安全在庫」の決め方を、需要のばらつきからの逆算という観点で詳しく扱います。発注点の精度を上げる鍵は、安全在庫の設計にあります。

私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「発注タイミングを、経験ではなく数字で回す仕組み」の設計支援です。発注点が定着すれば、欠品と過剰のどちらにも振れにくい在庫運営に近づきます。

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