6/7・6/8の続編です。在庫日数、業態別の目安は何日か(ベンチマーク7パターン)で目安レンジ、適正在庫日数は何日か、業態別の3つの計算式で日数の式が分かりました。残るのは「では、いつ発注するか」。本記事は、そのタイミングを発注点(ROP)の式で具体的に決める、操作レベルの記事です。
多くの現場では「在庫が少なく見えてきたら発注」「前回と同じタイミングで発注」「ベテラン担当者の感覚で発注」という運用が行われています。もちろん経験は重要ですが、担当者が変わると判断が変わる/売上が伸びると欠品が増える/仕入先が遅れると対応できない、という問題が発生します。
- 発注点とは(1分でおさらい)
- リードタイム逆算の3ステップ
- モデル3社で発注点を計算してみる
- よくある落とし穴と対処
- 結局、どうすればいいのか
- 図解:3ステップ × モデル3社のマトリクス
- まとめ+次回予告
発注点とは(1分でおさらい)
発注点(Reorder Point, ROP)は、「在庫がこの数値を割ったら発注する」閾値です。基本式はシンプルです。
リードタイム中の予想需要量は「リードタイム期間中に売れる量」、安全在庫は「需要やリードタイムのブレを吸収するバッファ」です。次のセクションで、それぞれを具体的に計算します。
リードタイム逆算の3ステップ
ポイントは、平均日次需要のデータの取り方。直近30日の平均だと一時的な動きに引っ張られ、直近90日の平均だと季節やトレンドの変化を捉えきれません。商材によって30日/60日/90日を使い分け、季節要因が大きい商材ではシーズン補正を入れます。重要なのは「実態に近い需要量」を使うこと。
安全在庫は保険です。保険がなければ欠品リスクが上がります。しかし厚く持ちすぎると、キャッシュが寝る/保管料が増える/滞留在庫が増える、という副作用も。安全在庫日数の決め方には、需要の標準偏差を使った古典的計算式もありますが、中小ECで標準偏差を厳密に運用するのは負担が大きい。経験則として、需要のピーク2週間分、またはリードタイムの50〜100%相当を起点に置き、月次で調整するのが実用的。詳しい計算は6/14公開予定の安全在庫記事で扱います。
モデル3社で発注点を計算してみる
業態が違うと発注点も大きく変わります。同じ式・違う数字、業態構造がそのまま発注タイミングに反映されます。
リードタイム(国内卸): 7日
安全在庫日数: 14日
STEP01(LT中需要): 10 × 7 = 70個
STEP02(安全在庫): 10 × 14 = 140個
リードタイム: 14日
安全在庫日数: 10日
STEP01: 30 × 14 = 420個
STEP02: 30 × 10 = 300個
リードタイム(海外OEM): 60日
安全在庫日数: 30日
STEP01: 5 × 60 = 300個
STEP02: 5 × 30 = 150個
3社の発注点は、210個/720個/450個と大きく違います。これは「優劣」ではなく、業態構造の違いがそのまま発注タイミングに反映された結果です。A社は発注頻度が高く小さく回し、B社はシーズン中に大きく動かし、C社は長LTを安全在庫で吸収する――式は同じでも、運用イメージは大きく違います。在庫構造が運転資金に直結する話はキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかで扱っています。
よくある落とし穴と対処
発注点を計算しても、前提が間違っていると意味がありません。
結局、どうすればいいのか
3ステップは出発点で、運用が答えです。
月次で実績と照合し、式の前提を見直す
実績の在庫推移と発注タイミングを月次で確認。欠品が起きていれば安全在庫を厚くする、過剰が続いていれば安全在庫日数を見直す。式の数字を「設定して終わり」にしないことが、最重要です。
全SKUを一度にやらない、主要20〜30品から始める
SKUが数百〜数千ある場合、全SKUに発注点を設定するのは現実的ではありません。売上上位20〜30品(パレート上位)から始め、3ヶ月で運用を安定させてから、隣のSKUグループに広げます。
業態別:最初に整えるステップ
業態によって、最初に整えるステップは変わります。共通するのは、3ステップを月次で回し続ける習慣を持つことです。
図解:3ステップ × モデル3社のマトリクス
3ステップとモデル3社の発注点計算を1枚に整理しました。
まとめ+次回予告
発注点の基本式は1つ。ROP = リードタイム中の予想需要量 + 安全在庫。3ステップで計算すれば、A社 210個/B社 720個/C社 450個と、業態構造に応じた具体的な発注タイミングが出ます。「経験で何となく」が「決めの数字」に変わると、発注判断は安定します。
ただし、式は出発点。月次で実績と照合し、需要・リードタイムのブレを見ながら調整していくのが運用です。需要変動やリードタイム変動は常に起こります。だからこそ、月次で見直す/上位SKUから始める/業態に合わせて調整する――この3つが、発注点を「決めたら終わりの数字」から「育てる仕組み」に変えます。
次回6/14(日)は、3ステップすべてに登場する「安全在庫」の決め方を、需要のばらつきからの逆算という観点で詳しく扱います。発注点の精度を上げる鍵は、安全在庫の設計にあります。
私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「発注タイミングを、経験ではなく数字で回す仕組み」の設計支援です。発注点が定着すれば、欠品と過剰のどちらにも振れにくい在庫運営に近づきます。
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