W5(在庫管理コアシリーズ)の最終回、安全在庫の決め方を扱います。前3記事で「目安レンジ→計算式→発注点」と進めてきました。3記事すべてに登場した「安全在庫」を、3つの方法で具体的に決められる状態にするのが本記事の目的です。
「安全在庫を厚くすれば欠品が起きない」と単純に決めると、キャッシュ拘束と保管料が膨らみます。「薄くすれば資金が回る」と決めると、欠品と機会損失が増えます。経験則・統計法・SKU階層別ハイブリッドの3方法を使い分け、自社規模と業態に合った答えを出す――それが本記事の狙いです。
- 安全在庫とは(1分でおさらい)
- 安全在庫を決める3つの方法
- モデル3社で安全在庫日数を計算してみる
- サービスレベルの決め方(補足)
- 結局、どうすればいいのか
- 図解:3つの方法 × 業態別の使い分けマトリクス
- まとめ+W5シリーズ完結
安全在庫とは(1分でおさらい)
安全在庫は、需要変動とリードタイム変動を吸収する「保険」です。「平均的にこれだけ売れる」「平均的にこれだけで届く」では捉えきれないブレを、在庫として積んでおく考え方です。
想定どおりに売れれば不要かもしれません。しかし現実には、急な売上増加・セール効果・入荷遅延・発注ミス・物流遅延、などが発生します。その時に欠品を防ぐために持つのが安全在庫です。
・機会損失
・緊急発注の高額輸送
・顧客満足度の低下
・保管料の増加
・滞留在庫
・廃棄・評価損リスク
どちらも放置すれば経営を圧迫します。「ちょうど良い」を業態と規模で決めるのが本記事のテーマです。在庫減の経済効果は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたでも触れています。
安全在庫を決める3つの方法
例:日次10個 × √14(≒3.74)× 1.65 ≒ 約62個
• 中位60%:方法①(経験則:LT × 70%)
• 死に筋下位20%:安全在庫を持たない、欠品許容(処分候補)
発注点との組み合わせは発注点の計算式、欠品しないリードタイム逆算の3ステップで扱っています。
モデル3社で安全在庫日数を計算してみる
中位60%:方法①(LT 7日 × 70%)≒ 5日
死に筋下位20%:0日(欠品許容、処分候補)
シーズン外:「次シーズンまでの保管量」として別管理
シーズン構造で別の物差しを当てる
長納期で発注頻度が低いため、LTのブレを吸収する経験則ベースで十分機能
長納期商材では、需要変動よりLT変動への対応が重要
3社の方法と日数は、業態構造をそのまま反映しています。適正在庫日数の式は適正在庫日数は何日か、業態別の3つの計算式で扱っています。
サービスレベルの決め方(補足)
サービスレベルは、「欠品を許容する確率の補完」です。サービスレベル95%なら、20回のうち1回欠品を許容する、と読みます。
結局、どうすればいいのか
3つの方法を全SKUに当てる必要はありません。中小ECの現実解は、SKU階層別ハイブリッド(方法③)です。
スタートは方法①、定着したら方法③へ
データが整備されていない段階では、方法①(経験則)で全SKUに安全在庫を持たせて運用を開始します。3〜6ヶ月で月次運用が定着したら、売上上位20%を方法②(統計)に切り替え、方法③のハイブリッドに育てていきます。
業態別:最適な方法
業態を問わない万能ルールはありません。共通するのは、月次で実績と照合し、方法と数字の両方を見直す習慣です。
図解:3つの方法 × 業態別の使い分けマトリクス
3方法の特性と業態別の優先選択を、1枚に整理しました。
まとめ+W5シリーズ完結
安全在庫を決める方法は、経験則(方法①)/統計法(方法②)/SKU階層別ハイブリッド(方法③)の3つ。データ整備の段階と業態によって、使い分けが要ります。「安全在庫を厚くすれば欠品が起きない」は単純な話ではなく、厚くしすぎればキャッシュと保管料の圧迫が起きます。「自社の業態とSKU構成に合った方法で決める」ことが、唯一の正解です。
経験則で始めるのも一つの方法です。データが整ったら統計法へ進むのも良いでしょう。そして多くの中小ECにとっては、売れ筋だけ厳密に管理し、それ以外はシンプルに運用するハイブリッド法が現実的な落としどころになります。
📚 W5 在庫管理コアシリーズ4記事の完結
- 6/7:在庫日数、業態別の目安は何日か(ベンチマーク7パターン) ── 土台レンジ
- 6/8:適正在庫日数は何日か、業態別の3つの計算式 ── 日数の式
- 6/11:発注点の計算式、欠品しないリードタイム逆算の3ステップ ── 発注タイミング
- 6/14:本記事 ── 安全在庫の決め方
4記事で「目安レンジ → 日数の式 → 発注点 → 安全在庫」が揃いました。次は、これらを月次運用に組み込み、実績で磨き続けるフェーズです。在庫管理は設定して終わる作業ではなく、月次で観察し続ける指標です。
私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「在庫管理コアシリーズの4要素を、月次運用に組み込む」設計の支援です。安全在庫は経営判断の保険、月次レビューがその保険の費用対効果を最適化します。
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