6/8で「適正在庫日数の式」、6/11で「発注点の3ステップ」を扱った。両方に登場する「安全在庫」を、どう決めるか――経験で決めると過剰、統計で決めると重い。その間の「現実的なちょうど良さ」が要る。

W5(在庫管理コアシリーズ)の最終回、安全在庫の決め方を扱います。前3記事で「目安レンジ→計算式→発注点」と進めてきました。3記事すべてに登場した「安全在庫」を、3つの方法で具体的に決められる状態にするのが本記事の目的です。

「安全在庫を厚くすれば欠品が起きない」と単純に決めると、キャッシュ拘束と保管料が膨らみます。「薄くすれば資金が回る」と決めると、欠品と機会損失が増えます。経験則・統計法・SKU階層別ハイブリッドの3方法を使い分け、自社規模と業態に合った答えを出す――それが本記事の狙いです。

目次
  1. 安全在庫とは(1分でおさらい)
  2. 安全在庫を決める3つの方法
  3. モデル3社で安全在庫日数を計算してみる
  4. サービスレベルの決め方(補足)
  5. 結局、どうすればいいのか
  6. 図解:3つの方法 × 業態別の使い分けマトリクス
  7. まとめ+W5シリーズ完結

安全在庫とは(1分でおさらい)

安全在庫は、需要変動とリードタイム変動を吸収する「保険」です。「平均的にこれだけ売れる」「平均的にこれだけで届く」では捉えきれないブレを、在庫として積んでおく考え方です。

想定どおりに売れれば不要かもしれません。しかし現実には、急な売上増加・セール効果・入荷遅延・発注ミス・物流遅延、などが発生します。その時に欠品を防ぐために持つのが安全在庫です。

⚠ 薄すぎる副作用
・欠品
・機会損失
・緊急発注の高額輸送
・顧客満足度の低下
⚠ 厚すぎる副作用
・キャッシュ拘束
・保管料の増加
・滞留在庫
・廃棄・評価損リスク

どちらも放置すれば経営を圧迫します。「ちょうど良い」を業態と規模で決めるのが本記事のテーマです。在庫減の経済効果は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたでも触れています。

安全在庫を決める3つの方法

METHOD 01
経験則・リードタイム比率法 ── 最も簡単、実装10分
安全在庫日数 = リードタイム × 50〜100%
例:リードタイム 14日 → 安全在庫 7〜14日
最もシンプルな方法。リードタイムが長いほどブレも蓄積するため、リードタイムの50〜100%を安全在庫日数の起点に置きます。10分で導入できてExcelだけで運用可能。経験則は古いやり方ではなく、データ整備前の現実的な第一歩です。
メリット
すぐ始められる/SKU多くても対応可
デメリット
需要変動の大きいSKUで欠品リスク
向いている:実装初期/SKU 500以上/データ未整備
METHOD 02
統計法・標準偏差 × サービスレベル ── 古典的な式、精度重視
安全在庫 = 平均日次需要 × √(リードタイム日数) × サービスレベル係数
サービスレベル係数:90% → 1.28/95% → 1.65/99% → 2.33
例:日次10個 × √14(≒3.74)× 1.65 ≒ 約62個
需要のばらつきを織り込み、欠品確率を理論的にコントロールする方法。需要の標準偏差を正確に使うとさらに精度は上がりますが、本記事では実装しやすい近似式に絞ります。
メリット
欠品確率を理論的にコントロール/高精度
デメリット
需要データの整備が必要/計算工数大
向いている:売れ筋上位SKUの精度向上/データ整備が進んだ事業者
METHOD 03
SKU階層別ハイブリッド法 ── 中小ECの現実解
SKUを3階層に分け、方法を使い分けます。「全SKUに統計式を当てる」のは、中小ECでは負荷が重すぎる。SKU階層別ハイブリッドが、実用的な落としどころです。
売れ筋上位20%:方法②(統計法)でしっかり計算
中位60%:方法①(経験則:LT × 70%)
死に筋下位20%:安全在庫を持たない、欠品許容(処分候補)
メリット
実務負荷とリスクのバランスが良い/中小ECの現実に合う
デメリット
3階層の判断軸が要る/SKU整理の運用が前提
向いている:データ整備が進んだ中堅/月次運用が回っている事業者

発注点との組み合わせは発注点の計算式、欠品しないリードタイム逆算の3ステップで扱っています。

モデル3社で安全在庫日数を計算してみる

A社(B2C雑貨EC)方法 ③
売れ筋上位20%:方法②で計算、安全在庫 約14日
中位60%:方法①(LT 7日 × 70%)≒ 5日
死に筋下位20%:0日(欠品許容、処分候補)
B社(季節品EC)方法 ② + 別管理
シーズン中:方法②で売れ筋上位を厳密計算
シーズン外:「次シーズンまでの保管量」として別管理
シーズン構造で別の物差しを当てる
C社(OEM長納期EC)方法 ①
リードタイム 60日 × 50% = 安全在庫 30日
長納期で発注頻度が低いため、LTのブレを吸収する経験則ベースで十分機能
長納期商材では、需要変動よりLT変動への対応が重要

3社の方法と日数は、業態構造をそのまま反映しています。適正在庫日数の式は適正在庫日数は何日か、業態別の3つの計算式で扱っています。

サービスレベルの決め方(補足)

サービスレベルは、「欠品を許容する確率の補完」です。サービスレベル95%なら、20回のうち1回欠品を許容する、と読みます。

99% 目安
欠品が致命的な商材
医療品・代替不可商品・契約条件付き商材。欠品コスト > 在庫コスト の典型。
95% 目安
標準的な商材・一般的なB2C物販
バランス型。多くの中小EC物販で採用される標準値。
90% 目安
薄利・回転重視の商材、季節終盤
欠品コストより在庫コストを重視する局面。シーズン末や処分対象SKUで採用。
「99%が正解」「95%が正解」と一律に決めるべきではありません。商材別に、欠品の痛みと安全在庫コストのバランスで決めます。サービスレベルを上げるほど安全在庫は厚くなり、CCC(在庫日数)が伸びます。CCC視点の関係はキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかで扱っています。

結局、どうすればいいのか

3つの方法を全SKUに当てる必要はありません。中小ECの現実解は、SKU階層別ハイブリッド(方法③)です。

スタートは方法①、定着したら方法③へ

データが整備されていない段階では、方法①(経験則)で全SKUに安全在庫を持たせて運用を開始します。3〜6ヶ月で月次運用が定着したら、売上上位20%を方法②(統計)に切り替え、方法③のハイブリッドに育てていきます。

業態別:最適な方法

B2C高回転型
方法③が中心
売れ筋への精度集中と、中位の効率運用を両立します。死に筋は欠品許容で処分候補。
季節品中心型
方法②でシーズン中の売れ筋上位を厳密に
シーズン中の売れ筋は統計で精度高く、シーズン外は別管理(次シーズンまでの保管量として)。
OEM・PB長納期型
方法①が現実的
リードタイムが長いため、LT比率での経験則で十分機能します。LT変動への対応が中心。

業態を問わない万能ルールはありません。共通するのは、月次で実績と照合し、方法と数字の両方を見直す習慣です。

図解:3つの方法 × 業態別の使い分けマトリクス

3方法の特性と業態別の優先選択を、1枚に整理しました。

安全在庫の3方法 × 業態別の使い分け 方法① 経験則 LT × 50〜100% 実装10分・SKU多くても可 方法② 統計法(√LT × 係数) 日次需要 × √LT × SL係数 精度重視・データ整備前提 方法③ SKU階層別ハイブリッド 売れ筋②/中位①/死に筋0 中小ECの現実解 業態 方法① 方法② 方法③ B2C高回転 ◎ 中心 季節品 ◎ シーズン中 OEM・PB長納期 ◎ 現実的
▲ 業態とデータ整備の段階で使い分け。「全SKUに統計法」は中小ECでは負荷大。

まとめ+W5シリーズ完結

安全在庫を決める方法は、経験則(方法①)/統計法(方法②)/SKU階層別ハイブリッド(方法③)の3つ。データ整備の段階と業態によって、使い分けが要ります。「安全在庫を厚くすれば欠品が起きない」は単純な話ではなく、厚くしすぎればキャッシュと保管料の圧迫が起きます。「自社の業態とSKU構成に合った方法で決める」ことが、唯一の正解です。

経験則で始めるのも一つの方法です。データが整ったら統計法へ進むのも良いでしょう。そして多くの中小ECにとっては、売れ筋だけ厳密に管理し、それ以外はシンプルに運用するハイブリッド法が現実的な落としどころになります。

📚 W5 在庫管理コアシリーズ4記事の完結

4記事で「目安レンジ → 日数の式 → 発注点 → 安全在庫」が揃いました。次は、これらを月次運用に組み込み、実績で磨き続けるフェーズです。在庫管理は設定して終わる作業ではなく、月次で観察し続ける指標です。

私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「在庫管理コアシリーズの4要素を、月次運用に組み込む」設計の支援です。安全在庫は経営判断の保険、月次レビューがその保険の費用対効果を最適化します。

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