数字の話
2026.06.05
by Arke合同会社
ECで広告費が売上比10%を超えた時の見直し3観点
広告を絞れば売上が落ち、広告を増やすと利益が落ちる――。広告を止めるべきかではない。「なぜ使っているのか」を説明できるかが、利益の残るECと残らないECの分岐点になる。
EC物販で月次P/Lを見ると、広告費は売上比率で並んでいます。3%、5%、8%、10%、12%――。「何%が黄信号か」を聞かれて、即答できる経営者は実はそう多くありません。「広告は無駄」と切り捨てるのは間違いです。一方、「広告を増やせば売上は伸びる」も、利益という観点では限界があります。
本記事では、売上比10%を1つの目安に据え、「なぜ10%か」と「超えた時に見直す3観点」を示します。なお、10%はあくまで業界平均的な目安で、最適値は業態や成長フェーズで大きく変わります。「ROAS◯倍を目指せ」のような単純な目標は提示しません。本記事は、自社の広告費を構造で見直すための地図です。
目次
- なぜ10%が1つの目安なのか
- 見直し3観点
- 業態別:10%が早い・遅い・無関係になる場合
- 結局、どうすればいいのか
- 図解:3観点のフレーム
- まとめ
なぜ10%が1つの目安なのか
粗利率30%の物販EC、というのが本記事の想定モデルです。
売上に対する粗利が30%なら、広告費10%は粗利の1/3を広告に投じている計算になります。残りの2/3に、固定費・人件費・物流費・販管費が乗ります。営業利益率が薄い物販モデルでは、この時点で営業利益はかなり薄い計算です。広告比率が12%、15%と上がると、利益はゼロに近づきます。
ただし、10%は「危険ライン」ではなく「立ち止まって見直す合図」です。粗利率が40%や50%の商材なら、12%でも15%でも回ることがあります。立ち上げ期の新ブランドなら、20%超でも投資として正当化される場合があります。10%という数字に意味があるのではなく、「比率を意識して見直す習慣」を持つことに意味があります。利益が残らない決算書の構造は利益が残らない決算書の3つの構造で扱っています。
PRINCIPLE
問題は広告費比率の高さではなく、「高い理由を説明できないこと」
広告比率が12%でも、その理由を経営者が即答できるなら、まだ手綱は握れています。逆に8%でも、「気づいたらこの水準になっていた」「なぜこの予算かは分からない」状態なら、すでに広告費は経営から離れています。10%は数字としての警報ではなく、説明できているかを確かめるトリガーです。
見直し3観点
観点 01
何にいくら使っているか ── 媒体別・キャンペーン別の分解
最初の観点は、広告費の内訳です。「広告費1,500万円」とまとめて見るのではなく、媒体別・キャンペーン別に分解します。検索広告/ディスプレイ/SNS/モール内広告/インフルエンサー施策――。媒体別の支出と、それぞれの効率(ROASや新規CPAなど)を並べます。「効率の良い媒体」と「掲載のために残しているだけの媒体」が見えてきます。後者は止めるか縮小するかの候補です。特に危険なのは「以前からやっているから残している」という状態。広告比率が上がった時ほど、施策ごとの存在理由を棚卸しする必要があります。広告費が現金に与える影響は
黒字なのに口座残高が減っていく時に何が起きているかでも触れています。
観点 02
何を売っているか ── 広告対象SKUの用途別分解
次の観点は、広告が「どのSKUを売っているか」です。広告対象のSKUは、用途別に3つに分かれます。
A
売れ筋への広告
目的は売上拡大とシェア確保で、あるべきROASは比較的高め。効率最大化が目標。月次の媒体別ROAS推移を追います。
B
新商品への広告
目的は立ち上げ投資。短期のROASは赤字でも許容、ただし期限を設けて「いつまでに自走させるか」を決めます。
C
在庫処分目的の広告
目的はキャッシュ化で、粗利率を犠牲にしてでも回す判断。ROASより消化速度が指標になります。
セール後の出口フローとセットで考えます。
観点 02(続き)
3用途で「あるべきROAS」と「許せる赤字」が違うのに、これを一緒にして「全体ROAS◯倍」と評価すると、判断を誤ります。売れ筋商品の広告と在庫処分広告を同じ基準で評価すると、効率改善の方向性が見えなくなる――用途別に分解した上で、それぞれの基準で見ることが要点です。
観点 03
なぜ伸ばしたか ── 目的・期限・撤退基準
3つ目の観点は、「なぜ広告費を増やしたか」を遡ることです。増やした理由は何だったのか――売上拡大、新商品立ち上げ、既存売上の維持。いつまでに何を達成すれば成功とするか――3ヶ月で目標達成、6ヶ月でROAS確保、1年で自走化。どこで撤退するか――目標未達なら止める、別媒体に振り替える。
「気づいたら増えていた」は、最も危険な状態です。明確な目的・期限・撤退基準がないまま膨らんだ広告費は、月次でこっそり利益を削っていきます。広告施策には「目的/期限/撤退基準」をセットで持つこと――目的が消えたのに予算だけが残る状態を避けるのが、本観点の本質です。値上げ前の選択肢として広告効率改善を扱う考え方は
値上げ判断の前に検討すべき利益率改善の5つの選択肢も参考になります。
業態別:10%が早い・遅い・無関係になる場合
10%は、業態と粗利率によって意味が変わります。
新規立ち上げ期(自社EC・新ブランド)
10%超えは構造的に起きる ── 期限と目標をセットで持つ
立ち上げ投資としての許容範囲。ただし「いつまでに10%を下回るか」を最初に決めることが、ずるずる伸びるのを防ぎます。短期利益だけで判断しない設計が必要で、観点③(目的・期限)が要です。
成熟期の単品リピート型
10%は危険ライン ── LTV基準で許容を判断
LTV(顧客生涯価値)から逆算し、「初回赤字でもLTVで回収」の前提が成立するかを月次で確認します。LTVが伸びていないなら、10%は明らかな赤信号。既存顧客が多い分、広告依存度の上昇は利益構造へ直接効きます。
モール中心の中堅期
10%は標準ライン ── 媒体別の見直しが主戦場
効率の悪い媒体を切る判断が継続的に必要です。月次の媒体別ROAS推移を見るのが、最低限のルーティン。観点①(媒体別分解)が効きます。掲載のために残している媒体を切るだけで、広告比率は改善します。
OEM・PB粗利率高め型
粗利率40〜50%なら広告比率12〜15%でも回る
10%という数字には縛られず、粗利率と広告比率のセットで判断します。「粗利率の何分の1を広告に充てるか」が、より本質的な指標です。重要なのは広告費率単体ではなく、粗利とのバランス。
業態と粗利率に応じて、許容ラインは大きく変わります。「自社にとっての10%は何%か」を決めることが、最初の作業です。
結局、どうすればいいのか
月次レビューで、広告費を3軸で出すルーティンを作ります。媒体別、SKU用途別、目的別。この3軸が並んでいれば、10%を超えた時に「どの観点から見直すべきか」が即座に決まります。月次P/Lで見るべき指標の全体像は月次P/LでEC社長が真っ先に見るべき5つの数字で扱っています。
業態別:効きやすい観点
SKUが多い型
最も効くのは観点②(用途別分解)
広告を当てるSKUの目的整理が、効率改善の鍵。同じ広告予算でも、用途別に配分を見直すだけで効率は変わります。
新規立ち上げ期
最も効くのは観点③(目的と期限)
期限なき投資を、期限ありの投資に変えることから始めます。立ち上げフェーズほど、撤退基準の事前合意が効きます。
成熟期
最も効くのは観点①(媒体別分解)
掲載のために残している媒体を切るだけで、広告比率は改善します。媒体別ROASの3ヶ月推移を月次で並べる習慣だけで、判断は速くなります。
10%は基準ではなく、見直しの引き金として使う――これが本記事の通底するメッセージです。引き金が引かれたら3観点で構造を見直す。この習慣が、広告費を「気づいたら膨らんでいる費用」から「目的を持って動かす投資」に変えます。
図解:3観点のフレーム
3観点を1枚に整理しました。
▲ 3観点で広告費を構造的に見る。10%は引き金、判断は3観点で。
まとめ
ECで広告費が売上比10%を超えた時、見直すべきは3観点です。観点①(何にいくら使っているか)、観点②(何を売っているか)、観点③(なぜ伸ばしたか)。10%は危険ラインではなく、立ち止まって見直す合図。粗利率と業態によって許容ラインは変わるため、「自社にとっての10%は何%か」を決めることが出発点です。
広告は無駄ではありません。ただ、目的・期限・撤退基準のないまま増えた広告は、月次でこっそり利益を削ります。問題は比率の高さではなく、高い理由を説明できないこと。3観点で広告費を構造的に見れば、削るべき領域と、伸ばすべき領域がはっきりします。
私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「広告費の構造を、経営判断できる数字に整える」設計の支援です。月次で3観点を並べる習慣が定着すると、広告費は「コスト」から「投資」に変わります。
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