EC事業者で「粗利率」と「在庫日数」を両方確認している経営者は多くいます。けれど、それぞれを単独で見て「粗利率が前年より上がった」「在庫日数が短くなった」と一喜一憂しているケースがほとんどです。
その結果、現場ではこんな現象が起きます:
本来、この2つは「資本効率」という1つの視点で結ばれた指標です。本記事では、両者を同時に評価する4象限マトリクスと、両者を1つにまとめた指標「GMROI」を紹介します。なお、本記事の数字はモデル値・代表的傾向で、実在企業のものではありません。
- 「粗利率だけ」「在庫日数だけ」で評価する危うさ
- 2指標を同時に見る「粗利率 × 在庫日数」マトリクス
- モデル4社のポジショニング
- 「粗利率 × 回転数 = GMROI」── 資本効率を1指標に
- 結局、どうすればいいのか(月次レビューの順番)
- 図解:4象限マトリクスにモデル4社をプロット
- まとめ
「粗利率だけ」「在庫日数だけ」で評価する危うさ
粗利率だけを見ると。 高粗利でも、在庫が重ければ資金は回りません。粗利率40%でも在庫日数120日なら、お金は4ヶ月分倉庫に縛られたまま。粗利は出ても、キャッシュは増えません。CCCの視点での違いはキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかも参考になります。
在庫日数だけを見ると。 短くしても、粗利率が薄ければ利益は残りません。在庫日数20日でも粗利率15%しか取れていなければ、回転は速くても利益薄い。値引きで在庫を回している場合の典型です。
例題:A社とB社、どちらが健全か即答できますか
どちらも一長一短があり、即答は難しい。「健全」かどうかは、業態と前提によります。判断するには、2指標を並べて見る視点が要ります。
実は、この2社をGMROI(後述)で並べると、B社のほうが資本効率は高いという結果が出ることがあります。粗利率だけ見ると圧倒的にA社優位ですが、在庫の重さを織り込むと評価は逆転する。これが、単独指標の危うさです。
2指標を同時に見る「粗利率 × 在庫日数」マトリクス
横軸に在庫日数、縦軸に粗利率を取り、ベンチマーク値(粗利率30%・在庫日数60日)を中心に4象限を作ります。
モデル4社のポジショニング
「粗利率 × 回転数 = GMROI」── 資本効率を1指標に
2指標を1つにまとめると、GMROI(Gross Margin Return On Inventory Investment、粗利投資収益率)になります。
簡易的には、粗利率 ×(365 ÷ 在庫日数) でも近似できます。意味は「在庫に投じた1円が年間でいくらの粗利を生むか」。
モデル:粗利率30% × 回転数6回 = 1.80(180%)
これは「在庫1円が年間1.80円の粗利を生んでいる」と読みます。
業態別の目安:
- B2C高回転コモディティ型:3.0以上
- B2C一般物販:1.5〜2.5
- OEM・PB長納期型:1.0〜1.5
ただし「◯◯以上を目指せ」と一律で決めるべき指標ではありません。業態構造で目安は変わり、自社の過去推移との比較が最も有効な使い方です。月次P/Lで見るべき5つの数字との関係は月次P/LでEC社長が真っ先に見るべき5つの数字で扱っています。
結局、どうすればいいのか
月次レビューに 「粗利率 × 在庫日数 × GMROI」の3点セット を組み込みます。
月次レビューで見る順番
月次レビュー・5問チェック
- 粗利率を見る ── 当月の数字、前月比、3ヶ月推移
- 在庫日数を見る ── 同じく当月・前月比・3ヶ月推移
- GMROIを見る ── 粗利率 × (365 ÷ 在庫日数) で算出
- 象限位置を確認する ── 4象限のどこにいるか、前月から動いたか
- 次月の改善方向を1つに絞る ── 象限ごとに最初に動かす変数を決める
単月だけでは判断を誤ることがあります。トレンドで確認することが重要です。
象限ごとに最初に動かす変数を絞る
4象限のどこに位置しているかで、最初に動かす変数が変わります。
月次で象限位置の推移を追う
象限内で位置が改善しているか、悪化しているかを月次で追います。1回の改善で象限を移ることは稀ですが、3〜6ヶ月の推移で象限内の位置がどちらに動いているかは見えてきます。業態によって、健全な象限位置は変わります。「象限①に行けば偉い」ではなく、「自社の業態構造の中で、健全な位置に近づけているか」が問いです。
図解:4象限マトリクスにモデル4社をプロット
4社を「粗利率 × 在庫日数」マトリクスにプロットしました。
まとめ
粗利率と在庫日数は、別々に追うと判断が片寄ります。「粗利率30%・在庫日数60日」を中心とした4象限マトリクスで、自社の位置を把握し、改善方向を1つに絞る。さらにGMROIで両指標を1つの資本効率指標にまとめれば、業態を超えた自社の推移評価ができます。
ただし、「象限①が偉い」「GMROI ◯◯以上が成功」という単純な話ではありません。業態構造で健全な位置は変わり、自社の過去推移との比較が最も実用的です。大切なのは、高粗利を目指すことでも、在庫日数を短くすることでもありません。自社がどの象限にいて、次にどの変数を動かすべきかを理解することです。単指標で完結する経営判断は、片寄りやすい。2指標を同時に並べて見る習慣が、月次レビューの質を変えます。
私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「経営数字を1指標で完結させず、構造で見る」設計の支援です。粗利率・在庫日数・GMROIを並べて見ると、月次の景色は明らかに変わります。1指標で一喜一憂しなくなり、構造変化に気づける月次レビューに切り替わります。
在庫健康診断(60分・無料)のご案内
「自社の粗利率と在庫日数のバランスを診断したい」「GMROIで資本効率を測りたい」という方へ。Arke では、貴社の販売・在庫データをもとに、2指標のポジショニングと改善方向を60分で診断する無料サービスをご提供しています。診断結果は、その場でレポート形式でお持ち帰りいただけます。