月次P/Lで粗利率は確認している、在庫日数も別表で見ている――。でも、2つを並べて評価していないと、判断は片寄ります。粗利率だけ見ても経営は見えない、在庫日数だけ見ても経営は見えない。

EC事業者で「粗利率」と「在庫日数」を両方確認している経営者は多くいます。けれど、それぞれを単独で見て「粗利率が前年より上がった」「在庫日数が短くなった」と一喜一憂しているケースがほとんどです。

その結果、現場ではこんな現象が起きます:

粗利率は良いのにキャッシュが苦しい
P/L 上は健全だが、月末になると口座残高が増えない。在庫が重く、現金が倉庫に縛られている状態。
在庫日数は改善したのに利益が伸びない
回転は良くなったが、値引きと過度な原価圧縮で粗利率が薄くなり、利益は横ばい。
売上は伸びているのに資金繰りが重い
粗利率も在庫日数も悪化していないように見えるが、両方の組み合わせで資本効率が落ちている。

本来、この2つは「資本効率」という1つの視点で結ばれた指標です。本記事では、両者を同時に評価する4象限マトリクスと、両者を1つにまとめた指標「GMROI」を紹介します。なお、本記事の数字はモデル値・代表的傾向で、実在企業のものではありません。

目次
  1. 「粗利率だけ」「在庫日数だけ」で評価する危うさ
  2. 2指標を同時に見る「粗利率 × 在庫日数」マトリクス
  3. モデル4社のポジショニング
  4. 「粗利率 × 回転数 = GMROI」── 資本効率を1指標に
  5. 結局、どうすればいいのか(月次レビューの順番)
  6. 図解:4象限マトリクスにモデル4社をプロット
  7. まとめ

「粗利率だけ」「在庫日数だけ」で評価する危うさ

粗利率だけを見ると。 高粗利でも、在庫が重ければ資金は回りません。粗利率40%でも在庫日数120日なら、お金は4ヶ月分倉庫に縛られたまま。粗利は出ても、キャッシュは増えません。CCCの視点での違いはキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかも参考になります。

在庫日数だけを見ると。 短くしても、粗利率が薄ければ利益は残りません。在庫日数20日でも粗利率15%しか取れていなければ、回転は速くても利益薄い。値引きで在庫を回している場合の典型です。

例題:A社とB社、どちらが健全か即答できますか

A社:粗利率40% × 在庫日数120日
粗利率は高いが、在庫が重い
B社:粗利率20% × 在庫日数30日
在庫は軽いが、粗利が薄い

どちらも一長一短があり、即答は難しい。「健全」かどうかは、業態と前提によります。判断するには、2指標を並べて見る視点が要ります。

実は、この2社をGMROI(後述)で並べると、B社のほうが資本効率は高いという結果が出ることがあります。粗利率だけ見ると圧倒的にA社優位ですが、在庫の重さを織り込むと評価は逆転する。これが、単独指標の危うさです。

2指標を同時に見る「粗利率 × 在庫日数」マトリクス

横軸に在庫日数、縦軸に粗利率を取り、ベンチマーク値(粗利率30%・在庫日数60日)を中心に4象限を作ります。

象限 ①
高粗利 × 短在庫日数 ── 理想形(資本効率◎)
粗利率が高く、在庫も軽い。資本効率が最も良い象限です。差別化された商材で、かつ需要予測精度が高い事業者がここに位置します。全SKUをここに置くのは現実的ではないが、多くの経営者が目指したい象限。
象限 ②
高粗利 × 長在庫日数 ── 粗利で吸収中だが要注意
粗利率の高さで在庫の重さをカバーしている象限。高級雑貨やOEM商品などで見られます。今すぐ危険ではないが、在庫が増え続けると利益を食い始めます。粗利率が下がるとキャッシュが急速に苦しくなるため、在庫日数の短縮余地を探るのが基本対応。
象限 ③
低粗利 × 短在庫日数 ── 薄利多売・回転で稼ぐ
粗利は薄いが回転で稼ぐビジネス。B2C高回転コモディティ型の代表ポジションです。日用品や消耗品など。粗利率の改善余地を探りながら、回転を維持する運営が要ります。
象限 ④
低粗利 × 長在庫日数 ── 危険ゾーン(要構造改革)
粗利も薄く、在庫も重い。両方が機能していない状態で、放置すると赤字とキャッシュ枯渇の両方に向かいます。商材・販路・コスト構造の見直しが必要な象限です。ただし、季節品や特殊商材では一時的にここへ入ることもあるため、象限だけで善悪を決めるべきではありません。

モデル4社のポジショニング

A社(高級雑貨EC)象限 ②
粗利率 45% × 在庫日数 90日
差別化された商材で粗利率は高めですが、在庫日数が長め。粗利で吸収できているうちに、在庫日数の短縮を進めるのが基本対応。売れ筋集中やSKU整理がテーマ。
B社(日用品高回転EC)象限 ③
粗利率 22% × 在庫日数 25日
薄利多売で回転を稼ぐタイプ。粗利率の薄さは構造ですが、原価交渉やマージン改善の余地を月次で探り続けます。欠品管理も重要。
C社(季節品EC)象限 ② 寄り
粗利率 35% × 在庫日数 150日(年平均)
象限②に位置しますが、150日は季節構造の結果。年平均ではなく「シーズン中とシーズン外」で別管理しないと実態を捉え損ねます。ベンチマーク詳細は在庫日数、業態別の目安は何日か(ベンチマーク7パターン)を参照。
D社(OEM・PB EC)象限 ④ 寄り
粗利率 28% × 在庫日数 100日
低粗利・長日数のゾーン。OEM長納期型では在庫日数100日は構造的ですが、粗利率28%は薄め。原価交渉とロット見直しの両方で粗利改善を狙う段階。在庫圧縮の利益効果は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたで扱っています。

「粗利率 × 回転数 = GMROI」── 資本効率を1指標に

2指標を1つにまとめると、GMROI(Gross Margin Return On Inventory Investment、粗利投資収益率)になります。

FORMULA
GMROI = 粗利率 × 回転数(年間売上 ÷ 平均在庫額)

簡易的には、粗利率 ×(365 ÷ 在庫日数) でも近似できます。意味は「在庫に投じた1円が年間でいくらの粗利を生むか」。

モデル:粗利率30% × 回転数6回 = 1.80(180%)

これは「在庫1円が年間1.80円の粗利を生んでいる」と読みます。

業態別の目安:

ただし「◯◯以上を目指せ」と一律で決めるべき指標ではありません。業態構造で目安は変わり、自社の過去推移との比較が最も有効な使い方です。月次P/Lで見るべき5つの数字との関係は月次P/LでEC社長が真っ先に見るべき5つの数字で扱っています。

PRINCIPLE
GMROIは「片寄った判断」では見えない構造変化を捉える
粗利率と在庫日数のどちらかを犠牲にして稼いでいる事業者でも、共通の物差しで比較できる点が強み。「粗利率が下がっても、在庫日数の短縮で資本効率は上がっている」といった、単独指標では見えない構造変化が捉えられます。

結局、どうすればいいのか

月次レビューに 「粗利率 × 在庫日数 × GMROI」の3点セット を組み込みます。

月次レビューで見る順番

月次レビュー・5問チェック

  1. 粗利率を見る ── 当月の数字、前月比、3ヶ月推移
  2. 在庫日数を見る ── 同じく当月・前月比・3ヶ月推移
  3. GMROIを見る ── 粗利率 × (365 ÷ 在庫日数) で算出
  4. 象限位置を確認する ── 4象限のどこにいるか、前月から動いたか
  5. 次月の改善方向を1つに絞る ── 象限ごとに最初に動かす変数を決める

単月だけでは判断を誤ることがあります。トレンドで確認することが重要です。

象限ごとに最初に動かす変数を絞る

4象限のどこに位置しているかで、最初に動かす変数が変わります。

象限 ②(高粗利×長日数)
在庫日数の短縮が中心
売れ筋への集中、滞留SKUの整理、発注精度の向上が効きます。適正在庫日数の計算式は適正在庫日数は何日か、業態別の3つの計算式で扱っています。
象限 ③(低粗利×短日数)
粗利率改善が中心
値上げの検討、原価交渉、仕入先の見直し、マージンの高いSKU構成への調整が効きます。セット販売や付加価値設計も候補。
象限 ④(低粗利×長日数)
両方の見直し ── 構造改革レベル
商材構成・販路・コスト構造の構造改革レベルの動きが必要です。どちらか片方だけでは改善しません。

月次で象限位置の推移を追う

象限内で位置が改善しているか、悪化しているかを月次で追います。1回の改善で象限を移ることは稀ですが、3〜6ヶ月の推移で象限内の位置がどちらに動いているかは見えてきます。業態によって、健全な象限位置は変わります。「象限①に行けば偉い」ではなく、「自社の業態構造の中で、健全な位置に近づけているか」が問いです。

図解:4象限マトリクスにモデル4社をプロット

4社を「粗利率 × 在庫日数」マトリクスにプロットしました。

粗利率 × 在庫日数 マトリクス(モデル4社プロット) 象限① 理想形 高粗利 × 短日数 資本効率◎ 象限② 粗利で吸収中 高粗利 × 長日数 → 在庫日数の短縮 象限④ 危険ゾーン 低粗利 × 長日数 → 構造改革 象限③ 薄利多売 低粗利 × 短日数 → 粗利率改善 A A社 45% × 90日 B B社 22% × 25日 C C社 35%×150日 D D社 28%×100日 粗利率 在庫日数 中心 60日 / 30% ※ 数値はモデル値。象限分類は出発点で、深掘りは個社の構造に依る。
▲ 同じ象限②でも、季節構造のあるC社と継続的なA社では運用が違う。

まとめ

粗利率と在庫日数は、別々に追うと判断が片寄ります。「粗利率30%・在庫日数60日」を中心とした4象限マトリクスで、自社の位置を把握し、改善方向を1つに絞る。さらにGMROIで両指標を1つの資本効率指標にまとめれば、業態を超えた自社の推移評価ができます。

ただし、「象限①が偉い」「GMROI ◯◯以上が成功」という単純な話ではありません。業態構造で健全な位置は変わり、自社の過去推移との比較が最も実用的です。大切なのは、高粗利を目指すことでも、在庫日数を短くすることでもありません。自社がどの象限にいて、次にどの変数を動かすべきかを理解することです。単指標で完結する経営判断は、片寄りやすい。2指標を同時に並べて見る習慣が、月次レビューの質を変えます。

私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「経営数字を1指標で完結させず、構造で見る」設計の支援です。粗利率・在庫日数・GMROIを並べて見ると、月次の景色は明らかに変わります。1指標で一喜一憂しなくなり、構造変化に気づける月次レビューに切り替わります。

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