楽天で売り切れ、Amazonで余り、自社ECで在庫切れ表示――同じ会社の在庫なのに、見え方がバラバラ。これは「在庫量」の問題ではなく、「在庫配分」の問題かもしれない。

複数販路を持つEC事業者にとって、「どの販路にいくつ置くか」は永続的な課題です。販路ごとに需要パターンが違い、移動にもコストがかかり、ROASも違う。それぞれを最適化しようとすると、全体として歪みます。在庫は十分に持っているはずなのに販売機会を逃し、その一方で、別の販路には動かない在庫が残り続ける――この景色は、在庫量ではなく配分設計の問題です。

本記事では、販路別在庫配分を「3つの軸」と「4つの配分パターン」で構造化し、業態別に効きやすい配分を整理します。「自社ECが優位」「モール依存はリスク」のような片方寄りの結論は取りません。「楽天 vs Amazon、どちらが儲かるか」という対立構造でも語りません。販路は優劣ではなく特性で扱う、というのが本記事の立場です。数字はすべてモデル値・代表的傾向で、実在企業のものではありません。

PRINCIPLE
配分問題 ≠ 在庫不足問題
片方で欠品、片方で余剰――この景色を見たら、最初に疑うべきは「全体の在庫量が足りないのか」ではなく、「在庫の置き場が偏っているのか」です。多くのケースで答えは後者。販路は競争相手ではなく、それぞれが特性を持つ「在庫の置き場」として設計するのが出発点です。
目次
  1. なぜ販路別在庫配分が難しいのか
  2. 在庫配分を決める3つの軸
  3. 4つの配分パターン
  4. モデルケース:100SKU × 3販路で配分比較
  5. 結局、どうすればいいのか(SKU階層別・業態別)
  6. 図解:3軸 × 4配分パターン × SKU階層
  7. まとめ

なぜ販路別在庫配分が難しいのか

販路別在庫配分が難しい理由は、大きく3つあります。

第1に、販路ごとの需要パターンが違う。曜日・時間帯・季節性・客層――楽天は週末の夜にスーパーセール需要、Amazonは平日昼の即配需要、自社ECはブランドファンの計画的購入、といった具合に、同じ商品でも動き方が変わります。需要構造そのものが違うため、単純に均等配分するとどこかで不足し、どこかで余ります。

第2に、販路間の在庫移動にコストと時間がかかる。FBA倉庫からの返送、自社倉庫からの再出荷、いずれも手数料・時間・人手が必要です。「片方で余ったから片方へ移す」が、思った以上に重い作業になります。「移動できる前提」で配分を組むと、移動コストが利益を削ります。

第3に、販路別のROAS・粗利率・コストが違う。モール手数料、広告効率、配送費の構造、すべてが販路で異なる。同じSKUを同じ価格で売っても、最終的に手元に残る粗利は販路で変わります。「よく売れる販路」と「利益が残る販路」は必ずしも一致しません。属人化した在庫管理が利益を蝕む構造は属人化した在庫管理が利益を蝕む構造でも触れています。

在庫配分を決める3つの軸

配分判断に使える軸は、3つに整理できます。

軸 01
販路別の需要構造 ── 曜日・時間帯・季節性・客層
販路別に「いつ・誰が・どのくらい買うか」のパターンを把握します。楽天はポイントイベントに連動、Amazonは即配重視層、自社ECはリピート顧客中心、といった違いを、月次の販売データから読み取ります。自社ECではリピーター中心でも、モールでは新規客中心というケースも多く、同じSKUでも必要在庫は変わります。需要パターンが把握できていなければ、配分は当てずっぽうになります。
軸 02
在庫移動コスト ── FBA返送/自社倉庫からの再出荷の現実
販路間の在庫移動には、それなりにコストと時間が伴います。FBAから自社倉庫への返送には手数料と日数、自社倉庫からモール倉庫への送付には配送費とリードタイム。在庫移動が難しい商材ほど、事前配分の重要性が高くなります。配分は「動かさずに済む状態」を前提に設計するのが基本です。
軸 03
販路別のROAS・粗利・コスト ── 実質粗利率で見る
販路別の広告効率、モール手数料、配送費を踏まえた「実質粗利率」を、SKUごとに把握します。同じ売価1,000円でも、A販路では実質粗利率20%、B販路では28%、ということが起きます。売上だけを見て配分すると、利益が薄くなる――この罠を避けるには、利益構造も含めて判断する必要があります。粗利率の高い販路に厚く配分するのは合理的判断の1つですが、需要パターン(軸①)と組み合わせて判断します。

4つの配分パターン

配分の設計には、おおむね4パターンがあります。

PATTERN 01
① 均等配分 ── 全販路に同数
メリット
シンプル・運用負荷が低い・少数SKUなら成立
デメリット
需要差を無視 ・ 過剰/欠品が起きやすい

スタートアップ初期や、SKU数が少ない時期の選択肢。

PATTERN 02
② 需要比例配分 ── 直近販売実績の比率で配分
メリット
直感的・過去データに沿う・実績重視
デメリット
過去依存・新商品/需要変動への追随が遅い

最も一般的。モール中心型の標準解。

PATTERN 03
③ ROAS加重配分 ── 利益貢献の高い販路に厚く
メリット
粗利最大化に近づく ・短期利益重視局面に強い
デメリット
需要薄販路で機会損失・ブランド露出が偏る

短期粗利を取りに行く局面、自社ECブランド型と相性。

PATTERN 04
④ 優先1販路集中+転送 ── 中央プールから必要時転送
メリット
在庫を集約しキャッシュ拘束減・配分柔軟性は最大
デメリット
着荷リードタイム延長・即配性が落ちる

OEM・PB長納期型と相性。配分の柔軟性は最大、即時性は最小。

「どれが正解」ではなく、業態とSKUの性質で組み合わせます。在庫減が利益に効く構造は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたでも扱っています。

モデルケース:100SKU × 3販路で配分比較

100SKUを3販路(楽天・Amazon・自社EC)で運用するモデルケースで、SKU階層別の配分の考え方を整理します。

売れ筋 20SKU(上位)
即配性と販路別需要への追随が要
需要比例配分(②)またはROAS加重配分(③)が機能します。在庫日数を短く保ち、補充頻度を上げる運用が前提。FBAの保管料も意識した配分が要点になります(FBA保管料 月10万・売上比3% を超えた時の見直しポイントも参考)。
中位 60SKU
需要差が大きくない ── シンプル運用
均等配分(①)または中央集約+転送(④)が現実的。需要差がそれほど大きくない中位SKUに、複雑な配分ルールを当てると運用コストが効率を上回ります。「凝らない」が正解の領域。
死に筋 20SKU(下位)
1販路に集約、出口設計を進める
全販路で在庫を持つ必要はありません。1販路に集約し、出口設計(値引き・キャッシュ化・廃棄)を進めるのが基本。販路を絞ることで、棚スペース・保管料を下げられます。出口フローはセール後の在庫を翌週月曜に持ち越さない出口フローと同じ思想。

粗利率が販路で違う場合は、SKU階層別配分の上にROAS加重を重ねます。たとえば自社ECで実質粗利率が高ければ、売れ筋の自社ECシェアを上げる、というのが調整の方向です。配分が運転資金(CCC)に与える影響はキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかでも触れています。

結局、どうすればいいのか

配分は、SKU階層別と業態別の2つの切り口で考えます。

SKU階層別の配分原則

売れ筋は需要追随、中位はシンプル運用、死に筋は1販路集約。この3階層の原則を、月次で見直すルーティンに乗せます。

業態別:効きやすい配分パターン

モール中心型
需要比例配分(②)が基本 → 死に筋は1販路に寄せる
各モールのセール期に合わせた配分調整が、売上を取りに行く局面で効きます。まずは欠品と過剰在庫の偏りを減らすことが優先。死に筋は1販路に寄せ、棚と保管料を最適化します。
自社EC中心ブランド型
自社ECに売れ筋を厚く(③)、モールは認知獲得用
販路ごとの戦略的役割を分け、ブランド世界観を自社ECで守る配分が中心。利益率の高い販路への重点配分が効きます。モールは認知獲得・新規流入のチャネルとして位置づけ、SKUラインを役割で分けるのも一手。
OEM・PB長納期型
優先1販路集中+転送(④)が現実的
リードタイムが長いため、各販路に大量配分すると修正が効きません。中央プール+必要時転送で柔軟性を確保。在庫総量そのものを抑える設計が重要。販路別最適化より全社在庫最適化を優先します。

業態を問わない万能配分はありません。共通するのは、「販路の優劣で判断しない」「SKU階層と業態で配分を変える」という2点です。

図解:3軸 × 4配分パターン × SKU階層

4つの配分パターンと、それぞれが効きやすいSKU階層・業態を、1枚に整理しました。

4つの配分パターン × SKU階層・業態 パターン① 均等配分 特徴 全販路に同数 シンプル運用 向くSKU・業態 中位SKU/ 需要差が小さい商材 過剰・欠品の振れに注意 パターン② 需要比例配分 特徴 直近販売実績の 比率で配分 向くSKU・業態 売れ筋/ モール中心型 新商品・変動への追随が遅い パターン③ ROAS加重配分 特徴 利益貢献の高い 販路に厚く 向くSKU・業態 売れ筋/自社EC ブランド型 他販路で機会損失 パターン④ 中央集約+転送 特徴 在庫を1箇所に プール+必要時転送 向くSKU・業態 中位/OEM・PB 長納期型 即配性は落ちる
▲ 配分は販路の優劣ではなく特性で決める。SKU階層と業態に応じて組み合わせる。

まとめ

複数販路の在庫配分は、3つの軸(販路別需要構造/在庫移動コスト/販路別ROAS・粗利・コスト)と、4つの配分パターン(均等/需要比例/ROAS加重/中央集約+転送)で構造化できます。「どの販路が儲かるか」ではなく、SKU階層と業態に応じた配分設計が、本質的な答えです。

販路を全社の在庫プールとして見る視点が、配分の歪みを減らします。販路別に最適化すると全体は歪み、全体最適化すると販路別に違和感が残る――このトレードオフを、SKU階層別×業態別の組み合わせで埋めていきます。在庫が適切に配置されると、欠品が減り、滞留が減り、キャッシュが改善する――この3つは連動して動きます。

私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「販路別在庫を、全社の視点で配分設計する」支援です。販路は競争相手ではなく、それぞれが特性を持つ「在庫の置き場」。設計の質が、欠品と過剰の両方を減らします。

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