複数販路を持つEC事業者にとって、「どの販路にいくつ置くか」は永続的な課題です。販路ごとに需要パターンが違い、移動にもコストがかかり、ROASも違う。それぞれを最適化しようとすると、全体として歪みます。在庫は十分に持っているはずなのに販売機会を逃し、その一方で、別の販路には動かない在庫が残り続ける――この景色は、在庫量ではなく配分設計の問題です。
本記事では、販路別在庫配分を「3つの軸」と「4つの配分パターン」で構造化し、業態別に効きやすい配分を整理します。「自社ECが優位」「モール依存はリスク」のような片方寄りの結論は取りません。「楽天 vs Amazon、どちらが儲かるか」という対立構造でも語りません。販路は優劣ではなく特性で扱う、というのが本記事の立場です。数字はすべてモデル値・代表的傾向で、実在企業のものではありません。
- なぜ販路別在庫配分が難しいのか
- 在庫配分を決める3つの軸
- 4つの配分パターン
- モデルケース:100SKU × 3販路で配分比較
- 結局、どうすればいいのか(SKU階層別・業態別)
- 図解:3軸 × 4配分パターン × SKU階層
- まとめ
なぜ販路別在庫配分が難しいのか
販路別在庫配分が難しい理由は、大きく3つあります。
第1に、販路ごとの需要パターンが違う。曜日・時間帯・季節性・客層――楽天は週末の夜にスーパーセール需要、Amazonは平日昼の即配需要、自社ECはブランドファンの計画的購入、といった具合に、同じ商品でも動き方が変わります。需要構造そのものが違うため、単純に均等配分するとどこかで不足し、どこかで余ります。
第2に、販路間の在庫移動にコストと時間がかかる。FBA倉庫からの返送、自社倉庫からの再出荷、いずれも手数料・時間・人手が必要です。「片方で余ったから片方へ移す」が、思った以上に重い作業になります。「移動できる前提」で配分を組むと、移動コストが利益を削ります。
第3に、販路別のROAS・粗利率・コストが違う。モール手数料、広告効率、配送費の構造、すべてが販路で異なる。同じSKUを同じ価格で売っても、最終的に手元に残る粗利は販路で変わります。「よく売れる販路」と「利益が残る販路」は必ずしも一致しません。属人化した在庫管理が利益を蝕む構造は属人化した在庫管理が利益を蝕む構造でも触れています。
在庫配分を決める3つの軸
配分判断に使える軸は、3つに整理できます。
4つの配分パターン
配分の設計には、おおむね4パターンがあります。
シンプル・運用負荷が低い・少数SKUなら成立
需要差を無視 ・ 過剰/欠品が起きやすい
スタートアップ初期や、SKU数が少ない時期の選択肢。
直感的・過去データに沿う・実績重視
過去依存・新商品/需要変動への追随が遅い
最も一般的。モール中心型の標準解。
粗利最大化に近づく ・短期利益重視局面に強い
需要薄販路で機会損失・ブランド露出が偏る
短期粗利を取りに行く局面、自社ECブランド型と相性。
在庫を集約しキャッシュ拘束減・配分柔軟性は最大
着荷リードタイム延長・即配性が落ちる
OEM・PB長納期型と相性。配分の柔軟性は最大、即時性は最小。
「どれが正解」ではなく、業態とSKUの性質で組み合わせます。在庫減が利益に効く構造は「在庫を減らすと利益が増える」を数学的に証明してみたでも扱っています。
モデルケース:100SKU × 3販路で配分比較
100SKUを3販路(楽天・Amazon・自社EC)で運用するモデルケースで、SKU階層別の配分の考え方を整理します。
粗利率が販路で違う場合は、SKU階層別配分の上にROAS加重を重ねます。たとえば自社ECで実質粗利率が高ければ、売れ筋の自社ECシェアを上げる、というのが調整の方向です。配分が運転資金(CCC)に与える影響はキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)30日と90日の会社、何が違うかでも触れています。
結局、どうすればいいのか
配分は、SKU階層別と業態別の2つの切り口で考えます。
SKU階層別の配分原則
売れ筋は需要追随、中位はシンプル運用、死に筋は1販路集約。この3階層の原則を、月次で見直すルーティンに乗せます。
業態別:効きやすい配分パターン
業態を問わない万能配分はありません。共通するのは、「販路の優劣で判断しない」「SKU階層と業態で配分を変える」という2点です。
図解:3軸 × 4配分パターン × SKU階層
4つの配分パターンと、それぞれが効きやすいSKU階層・業態を、1枚に整理しました。
まとめ
複数販路の在庫配分は、3つの軸(販路別需要構造/在庫移動コスト/販路別ROAS・粗利・コスト)と、4つの配分パターン(均等/需要比例/ROAS加重/中央集約+転送)で構造化できます。「どの販路が儲かるか」ではなく、SKU階層と業態に応じた配分設計が、本質的な答えです。
販路を全社の在庫プールとして見る視点が、配分の歪みを減らします。販路別に最適化すると全体は歪み、全体最適化すると販路別に違和感が残る――このトレードオフを、SKU階層別×業態別の組み合わせで埋めていきます。在庫が適切に配置されると、欠品が減り、滞留が減り、キャッシュが改善する――この3つは連動して動きます。
私たち Arke がデータで取り組んでいるのも、まさにこの「販路別在庫を、全社の視点で配分設計する」支援です。販路は競争相手ではなく、それぞれが特性を持つ「在庫の置き場」。設計の質が、欠品と過剰の両方を減らします。
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